Sports for Socialでは、サラヤ株式会社(以下、サラヤ)の社会貢献活動と想いを紹介する連載を掲載しています。
ヤシノミ洗剤の原料となるパーム油の生産地、ボルネオの自然や動植物の保護活動をしている「ボルネオ保全トラストジャパン」理事を務められている中西宣夫さんのインタビューを3回に分けてお届けします。
前編となる今回は、中西さんの紹介とサラヤやボルネオとの関係を紹介していきます。
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中西さんとサラヤの出会い
2000年から2003年まで環境保護型農業NGOのプロジェクトマネージャーとして中東のヨルダンに駐在、2004年に任期満了に伴い帰国した中西さん。
帰国後も国際協力、異文化理解、環境問題と関わっていきたいと考え、大阪大学大学院国際協力論講座の学生となります。そこで教授に、サラヤが取り組むボルネオの生物多様性保全活動に協力し、自分の研究の題材にすることを勧められました。
サラヤが関わることになったボルネオの野生動物の救出や森林保全に関する問題でしたが、ボルネオ現地の情報が少なく、問題に対応できる人材がおらずに困っていたサラヤが教授に相談を持ちかけていたのです。
中西さんとサラヤの出会いは2004年、大学院の教授がサラヤから受けた相談がきっかけでした。
キッカケは、1本のテレビ番組
1997年から2009年まで、テレビ朝日系列で「素敵な宇宙船地球号」という番組が放送されていました。毎週異なる地球環境問題を取り上げ、地球上で生活をする私たちが未来のためにできることについて考える情報・ドキュメンタリー番組です。
世界各地を回り、野生生物や自然を題材に長年番組を作り続けてきた番組プロデューサーが次の題材に選んだのは、まだ日本ではよく知られていないボルネオ島固有の象、ボルネオゾウでした。
2004年、番組プロデューサーをはじめとする撮影隊がボルネオで目にしたのは、数多くのけがを負った野生の象でした。原因は人間が仕掛けた「跳ね縄」。
一体なぜ野生の象をボルネオの人々は罠にかける必要があったのでしょう。
罠にかかった象から見えてきたこと
ボルネオはマレーシア、インドネシア、ブルネイの3つの国の領土が入り組んだマレー諸島の島です。その中でもマレーシアのサバ州にあたる地域は自然の多様性が豊かな場所として知られていました。しかし、大規模な森林伐採と農園開発が無秩序に進められていたのです。
大規模な開発の理由は、アブラヤシを栽培することでした。
アブラヤシは油糧作物と呼ばれ、その実から採れる「パーム油」が世界中に輸出され、商業利用されています。日本でも食用油としてカップ麺やスナック菓子、チョコレートなどに使われ「日本人は一人当たり年間約5kgものパーム油を消費している」とも言われている、なくてはならない油なのです。そして食用の他にも化粧品やペンキ、キャンドルなどの他、石鹸や洗剤にも使われ、サラヤでも「ヤシノミ洗剤」の原料の一部にパーム油を使っています。
アブラヤシ農園で働く労働者の多くは移民や不法移民のため、貧しく、満足な食事を食べられない生活を強いられていました。畑に罠を仕掛けていたのは、彼らがタンパク源としてイノシシやマメジカなどの小動物を捕まえるためでした。
罠は象を捕まえるためのものではありませんでしたが、罠の仕掛けに興味を持った子象が鼻や足を近づけてしまい、けがを負うことが多くありました。罠の縄を引きちぎって逃げられても、罠が成長と共に皮膚に食い込んでいき、鼻や足が膿んでしまうのです。
番組の撮影隊がボルネオへ行った時期は、多くの象がけがを負う事態が多発していた頃でした。撮影隊は、象がけがを負ったのはアブラヤシ農園の開発が原因であること、アブラヤシから採れるパーム油が日本に輸出されて食品加工の多くに使われていること、日本人がそれを知らずに消費していることを知りました。
インタビューと番組放映、そして苦情
番組プロデューサーは、アブラヤシやパーム油を商品の原料として使用している会社へのインタビューが番組に必要であると考え、多くの会社にコンタクトを取りますが、すべて拒否されてしまいます。
その時、プロデューサーが相談を持ちかけたのがサラヤの更家社長とも親交のある環境問題の活動家の方でした。サラヤなら環境問題への理解があるため、インタビューに応じてくれるかもしれない、と更家社長の紹介を申し出たのです。
紹介を受けたサラヤの社内では「パーム油を多く利用する大企業が断っている中、わずかしか使っていない自社が取材を受けたら、ボルネオの問題はサラヤのせいと消費者に誤解を受けるのではないか?」と多くの議論が交わされましたが、最終的には更家社長がインタビューに答えて番組は完成し、2004年8月に全国放送されました。
更家社長はインタビューに「ボルネオの現地で、アブラヤシを原因として動物が傷ついていることを知らなかった」と正直に答えました。しかし、放送された番組を見た視聴者の多くは「ボルネオの環境破壊にサラヤの製品が関わっている」と誤解。サラヤ製品のボイコットを言い放つ苦情電話がかかってくる程のマイナスな反響が起こってしまいました。
この事態への対応から更家社長は、友人であった大阪大学の教授に相談を持ちかけたのです。
番組放送後の視聴者の反応に戸惑いを覚えた番組プロデューサーも、サラヤが問題解決のために行動を起こすことを知り、サラヤがボルネオの問題対応に立ち上がる姿を伝える続編を撮影することに決めました。
次回、中西さんが理事を勤められているボルネオ保全トラストジャパンについて、立ち上げの経緯や現在の活動、今後のお話をお届けします。
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中西 宣夫(なかにし のぶお)
大阪市生まれ。同志社大学卒業、大阪大学人間科学研究科修士課程修了。
2000年7月より2003年8月まで、公益社団法人日本国際民間協力会の
プロジェクト・マネージャーとしてヨルダン・ハシミテ王国に駐在。
2004年11月よりサラヤ㈱研究調査員としてマレーシア国サバ州での
アブラヤシプランテーションと生物多様性保全のためのフィールド調査を行う。
2007年、特定非営利法人ボルネオ保全トラスト・ジャパンの設立に携わり、
現在は同団体の理事も務める。
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参考
サラヤ株式会社:https://www.saraya.com/index.html
ヤシノミ洗剤:https://www.yashinomi.jp/index.html
認定NPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパン:http://www.bctj.jp
パーム油の利用について:https://palmoilguide.info/about_palm/detail
ボルネオ生物多様性・生態系保全プロジェクト:https://www.jica.go.jp/oda/project/0600561/index.html
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