北海道札幌市のマドレーヌ屋『マドマドレ』を運営する株式会社HYKは、福祉事業と食品事業を運営する従業員2名の会社です。少人数の会社ですが、その取り組みや姿勢が認められ2024年度健康経営優良企業のブライト500を獲得しました。
2018年の胆振東部地震で被災した代表の上保木聡志さん(以下、上保木)は、それをきっかけに多くのことを考えるようになりました。「被災したからこそ被災地支援を、だから自分が健康で、従業員が健康で、会社が健康で、地域が健康で、社会が健康でなければ、誰かの役にたてない」と話します。
企業としての健康経営に向けた取り組み、学生とのコラボレーションなどにも力を入れているHYKについてその想いを伺いました。
なにができるか?を考えながら、食品・福祉へと発展
ーー上保木さんが会社を立ち上げたきっかけを教えてください。
上保木)はじめは野菜や果物の販売からスタートしました。福祉事業も、野菜の袋詰めなどの仕事を依頼していた福祉作業所との繋がりから、イベントなどにも取り組むようになり、現在の『就労継続支援B型事業所ベジタブル』の形になっていきました。
ーー2018年に発生した胆振東部地震が、大きな事業転換のきっかけにもなったと伺いました。
上保木)胆振東部地震では店舗の建物自体が全壊となり、1週間ほど「もう何もできない」という精神状態になってしまいました。しかし、職員の生活や関わる障がいのある方々を守らなければという想いがだんだんと強くなり、被災から3週間後には別の場所で事業をリスタートしました。「まわりを助けたい」、「後悔したくない」という想いが強くなり、いまできる最大限のことをしようと動いています。また、復興のときに気にかけてくれた地域の方々への恩返しの意味も含め、地域に返していくことが宿命なのかと思い、社会貢献には強く気持ちを入れて行っています。
健康経営『ブライト500』に選定!小さな企業だからこそできること
ーー健康経営優良企業として、中小企業を対象としたブライト500にも選ばれました。
上保木)社員やその家族がいてこの会社がある、ということは胆振東部地震の際により強く感じました。自分だけでなく、まわりの健康をどのように作っていくのか。人数の少ない会社ではありますが、そうした想いが、持続可能な経営をしていく秘訣だと思っています。
ーー健康経営に関して、どのような基準をもって方針を定めていくのでしょうか?
上保木)「自分が社員だとして、こういう制度があればいいな」という視点を大事にしています。例えば労働時間も、働く時間が減った分を家族との時間に充てることができれば素晴らしいことですよね。有給休暇だけでなくバースデー休暇などの制度を定めたり、会社負担で就業時間内に社内でボディメンテナンスできる形をとったりするような、小さい会社だからこそできることをスモールステップで形にしながら、よりよい形を探っています。
ーー休暇などを増やしてしまうと、業務への支障が出ないかなどは気になりませんか?
上保木)制度が整ったから劇的にパフォーマンスが良くなるかというと、そんなに変わらないです(笑)。ですが、従業員を大事にする想いがしっかり伝わっていないと、他社と比較されたときに金額などですぐに移ってしまう可能性もありますよね。
「私たちHYKはこんな会社」だ、ということをしっかり示しながらコミュニケーションを取ることを大事にしています。また、自分たちだけではなかなかできないことも、他社さんとのパートナーシップで気づいたり実行できたり、アイデアをいただきながら困りごとに対して進められていることが一番大きなよかったところかなと思います。
学生との取り組み
ーー学生とともに行うプロジェクトも多く行なっていますよね。
上保木)「いまあるものを次の世代に残していくために」という想いから大学生の方々と関わるようになりました。共同開発や販売などの取り組みは、コロナ禍で学生さんたちがなかなか思い通りに活動できなかったことがあった中で、1つでも「こんなことやったんだ」という成功体験を積み、将来のために何かしら役に立ってくれたらという思いで行っています。
ーー藤女子大学さんとは、わかめを活用したマドレーヌを作られました。
上保木)これまでは、“あまっている原料”を活用した商品を作ることが多かったのですが、今回は藤女子大学さんが研究する素材として“わかめ”を活用することになりました。
大学が一生懸命研究をしても、なかなか消費者にまでその有用性や効果を知ってもらうことは難しいです。だからこそ、いままで研究してきたことを形を変え、マドレーヌとして販売することで「わかめってすごいんだ!」ということを知る間口が広がればと思っています。
あまった素材、研究の成果など、いまあるものを大切にして、“新しい形にしてそれを次の世代に残していく”ところに貢献したいと考えています。
ーーいままで頑張ってきたことが日の目をみるために、マドレーヌが1つの手段となることもあるのですね。上保木さんご自身が学生から得られるものはありますか?
上保木)私が思っていた以上に学生は一生懸命だなと感じますし、素晴らしい熱量を持っています。一緒に創り上げていく過程で、感動することも多くあります。
商品販売の部分にも力を入れているのは、ただ単に商品開発をしてイベント的に販売する形ではなく、関わった学生たちが卒業してからも店舗やWEB上で商品を見て、「これを作ったのは自分なんだよ」とずっと言えるような環境を作りたいという想いからです。
ゆくゆくは、アメリカなどの世界の店舗にも並ぶようにしたいですね。この話が“世界”にまで繋がっているという夢を見られるような取り組みにしたいです。
地元へのサッカー貢献
ーー子ども向けのサッカー大会、マドマドレ杯を開催されるなど、スポーツを通しての地域貢献にも力を入れていらっしゃいます。
上保木)マドマドレ杯を行う駒岡第2サッカー場は、比較的新しいグラウンドです。北海道は雪が降りますし、維持管理も大変だと思うのですが、そこに“子どもたちのために”という想いを持ってつくられたことに共感しました。こうしたグラウンドを長く維持し続けていただくためにも、自分たちでお金を出したいと思ったのがきっかけで始めました。
ーーこうしたスポーツできる機会が子どもたちにどのような好影響を与えていると思いますか?
上保木)健康のためや将来のためとは言いますが、その日の子どもたちはもうとにかくキラキラしていました。それを見ているだけで、開催してよかったと思えますよね。
また、子どもたちというより、自分自身に対して「この大会を続けるために頑張らなきゃ」と思えたこともよい影響ですね。
ーーこれから数年、5年後10年後、何かこんなことやりたいみたいなこと、思ってることって今あったりしますか。
上保木)みんなで一緒に作った商品を私が売り込むのではなく、学生をはじめとした一緒に開発した方々がバイヤーにプレゼンをするようになったらいいなと思っています。それは、海外での販売も含めてです。自分で実際に行って、「ここに置いてほしい」と熱意を持ってプレゼンし、売ってもらえるようなことになればすごく素敵だなと思います。
ーーHYKさんとして、健康経営や学生との取り組み、まちづくりなど多くのことに取り組む意義を改めて教えてください。
上保木)取り組みについて、「どれが一番大事か?」と問われても優先順位はつけられません。地域貢献や社会貢献、事業拡大、健康経営などがすべて整っていないといけないと思いますし、どれかが欠けても今の形にはなり得ません。すべてが1つの円になって、小さな渦が大きくなってくようなイメージでこれまでも1つずつ形にして取り組んできました。
「小さな会社だからこそできること」もあると思うので、しっかりと土台を作り、発信し、さまざまな企業の“次”に繋がるような企業・人でありたいと思っています。
ーーありがとうございました。