東京ヴェルディが実施する年間250回に迫る障がい者スポーツ/インクルーシブスポーツ事業。2015年以降、活動の回数とともに信頼と安心感を積み重ねてきたその第1回目は、ホームタウンのひとつである東京都日野市での活動でした。
そんな日野市にある日野市立南平体育館で行われた、『日野市×東京ヴェルディ 南平体育館スポーツフェスタ2024』に潜入しました。午前中は小学生の子どもたちを集めた「サッカー教室」に加え「デフサッカー体験会」を、午後には「日野市障がい者スポーツ体験教室」を実施しました。1日で約100名もの参加者が集まったこのイベントは、“健常者が障がいのことについて知る機会”と“障がいのある方のスポーツ機会”の両方の側面を持つ1日となりました。
市民のために活動する自治体や公共施設にとって、東京ヴェルディとともにこうしたインクルーシブなイベントを開催することにどのような意義があるのか?関係者にお話を伺いました。
インタビュー対象
日野市産業スポーツ部 文化スポーツ課 課長補佐 室瀬英さん
日野市産業スポーツ部 文化スポーツ課 スポーツ係 田邊海さん
日野市立南平体育館(受付管理等業務受託事業者:株式会社フクシ・エンタープライズ所属)毛綱(もづな)亨さん
東京ヴェルディ株式会社 障がい者スポーツ専門コーチ:中村一昭さん

インクルーシブなイベントを東京都日野市で開催!その意義とは?
ーー東京ヴェルディの障がい者スポーツ教室の活動は、2015年に日野市での活動からスタートしたと伺いました。中村コーチはこの活動の積み上げにどのような想いがありますか?
東京ヴェルディ 中村コーチ)2015年、一番最初に日野市さんと活動させていただいたときには5名の参加者しか集まらず、どうしたらいいのか考えながら手探りで活動していた時期もありました。
「体育館に集まってください」とアナウンスするだけではなく、実際に福祉作業所に行ってパンを買うついでにお話したり、信頼関係を築くためにいろいろと行動を起こしましたね。そうした努力もしてきましたが、やはり私たち東京ヴェルディだけでは10年近くもこうした活動を続けられません。日野市の文化スポーツ課の皆さんや、障害福祉課の皆さん、そして施設の方々とともに作ってきたものですし、現状に満足せずもっともっと議論をしながら活動を積み上げていきたいと思っています。

ーー日野市にとって、障がいのある方へのスポーツ・運動の機会があるということに、どのような意義を感じられますか?
日野市 室瀬)日野市は、『日野市障害者差別解消推進条例』を比較的早い段階で自治体として制定しました。「障がいのあるなしに関わらず、暮らしやすいように」ということは自治体としても各部署で共通して考えていくことだという認識がある中で、障がい者スポーツはやはり重要なファクターになります。
『第2次日野市スポーツ推進計画』でも障がい者スポーツの普及は目標の一つとなっており、さらに、障がいのある方だけでなくそうでない方も分け隔てなくパラスポーツ・障がい者スポーツに関心を持っていただこうという思いも込めて計画を策定し、取り組んでいるところです。
ーー南平体育館さんのような、施設としてはこうしたイベント開催の意義をどのように感じているのでしょうか?
南平体育館 毛綱)南平体育館は日野市の南部にある体育館で、令和4年4月に建て替え工事を終え、新しくオープンした施設になります。日野市の北部にある日野市市民の森ふれあいホールでは、長く障がい者スポーツを実施しており、南部の拠点としてこの南平体育館を活用していきたいという思いもありました。日野市さん、東京ヴェルディさんとご一緒させていただく中で、どんな人たちに来ていただきたいか、開催日時の設定から内容まで連携しながら準備を進めることで、私たちも勉強させていただいています。

日野市にとっての“東京ヴェルディ”とは?
ーーこうしたインクルーシブな取り組みをプロサッカークラブである東京ヴェルディさんとともに取り組むことにはさまざまな意義があると思います。ちなみに、皆さん東京ヴェルディさんに対してはどのような印象を抱いていますか?
室瀬)私はサッカー好きなので、もちろんJリーグ創設期から歴史のあるクラブとして存じ上げていたのですが、実際に仕事で関わらせていただくようになってからさらによい印象になっています。さまざまなことに積極的に動かれていて、なおかつ難しい場面にも丁寧に対応してくださる姿勢に対して、私たちもそれに応えたいと素直に自然に思わせてくれていますし、今後もそういう関係性でいろいろと進めたいなと前向きに思っています。
私たち日野市だけでなく他の地域に対しても、地域貢献活動をここまで一生懸命にやっていただいていることが、クラブの成長にももしかしたら寄与しているのではないのかなと思ったりもします。同じスポーツ業界で働く人間として刺激を受けますよね。
日野市 田邊)私は日野市出身で、小学生のときに東京ヴェルディの方々が学校に来て、体育の授業で一緒にサッカーをやったことをよく覚えています。日野市に入庁したときも「東京ヴェルディと仕事ができる」と嬉しく思いましたし、私が小学生のときから活動をずっと続けてこられていることに率直にすごいなと思いました。仕事をしていても、東京ヴェルディさんに関する問い合わせも多くあり、日野市民の関心や興味の高さが伺えます。

ーー東京ヴェルディさんは、今日も16名のコーチがイベントに参加されてました。ほかのチームなどに比べても、すごく多くのコーチが参加している印象です。
中村)東京ヴェルディのスクールコーチ陣もできる限りこうしたイベントに参加するようにしています。こうしたイベントを通してコーチ陣も日々勉強させてもらっていて、新しい方が来るときには「この人にはどんなスポーツが合うのだろう」ということや「どんなものを使うとスポーツを楽しむことができるのか」などを考え、実践していきます。今回の活動でも多くの学びをいただきました。
ーー素晴らしいことですね。日野市での活動も少しずつ広がってきています。
中村)日野市さんとは参加者の少ない時期やコロナ禍を一緒に乗り越えてやってきました。厳しい状況もあったかなと思うのですが、スポーツを止めずにやってこれたことが、今回多くの方にお越しいただいたような成果として表れているのではないかと思います。
障がいのある方々のスポーツの場を作っていくこと、そして小学校低学年の時期から障がいのある人たちの気持ちになれるような場を提供していくことで、障がいがあってもなくても、「この街に暮らしてよかったな」という想いをスポーツを通して作ることができたらと思いますし、それをいろいろな方と協力しながら作れたらと思いながら今日も活動していました。
ーーこうした想いが伝わって、日野市さんを始めとして各自治体の障がい者スポーツ教室の枠や出前授業の数が増えているのですね。

障がい者スポーツ教室がある意義
ーー今回のイベントは参加者も多く、規模の大きなものだったように思います。施設としても多くの方にお越しいただけて、よりよいイベントになったのではないでしょうか。
毛綱)午前の部でも午後の部でも定員以上の方の応募をいただき、東京ヴェルディさんのご厚意で枠を増やして受け入れていただきました。子どもたちだけではなく、多くの保護者の方にも参加いただけたことは私たちにとっても嬉しいことでした。南平体育館は、令和4年度に建替工事が終わり、ユニバーサルデザインを多く取り入れている施設です。「この体育館なら障がいがあっても利用できるね」ということを皆さんに知っていただけたらと思っています。
トイレなどもバリアフリーとなっていますが、実際に障がいのある利用者さんから、「ここに物があると通りづらい」というお話や、「動線を区切っていただけると車いすユーザーも通りやすい」などの生の声をいただき、運営に活かしていることも多々あります。東京ヴェルディさんのイベントでこうして多くの方が集まっていただけるのは、そうした意味でも私たちにとって価値のあることです。
ーー中村コーチも同じように「障がいのある方が住みやすい街を作りたい」という想いが強いですよね。
中村)本日のイベントでも、午前中は健常者の小学生がデフサッカーを体験し、手話を体験するなど、健常者が障がい者スポーツを学ぶ機会にもなりましたし、交流の機会にもなりました。こうした活動を続けていくことによって、お互いの理解や障がい者スポーツの普及にもつながっていくのではないかと考えています。

ーー皆さんにとってこのインクルーシブな一日はいかがでしたか?
毛綱)デフサッカー元日本代表監督でゲストとして来ていただいた植松隼人さんに言われた、「もっと対外的にアピールしてね」という言葉が印象に残っています。中村コーチがおっしゃるように、障がいのある方だけではなくて、日野市に住んでいる方の障がいへの理解が共生社会の実現に繋がっていくようなイベントです。館内にいらっしゃる方にも、「今日は障がいのある方向けのスポーツイベントをやっているんです」というと、「そういう活動はいいですね」と共感してくださる方もいらっしゃいました。
これからもそうして皆さんの気づきとなるような機会を日野市さん、ヴェルディさんとも作っていけたらと思いますし、ここにさらに協力してくれる方を増やしていくことも今後大事なステップなのではないかなと感じています。
室瀬)本日のイベントはいままでのイベント以上に活気があり、笑顔が多くみられ、たくさんの楽しい声が聞こえるイベントになったと思います。
2024年(令和6年)はパリでパラリンピックが開催され、2025年(令和7年)は東京都でデフリンピックが開催されます。大会時期だけ盛り上がる、あるいは準備期間だけいろいろなイベントが開催されるという状況にするのではなく、継続的に「スポーツの楽しさ」にどんな人でも触れられるような機会を創っていければと思いますし、東京のデフリンピックも大会まで盛り上げながら、その後にも繋がるように施設、東京ヴェルディさんとも協力していきたいです。

中村)参加者が非常に多く、こうした活動が定着してきてるのかなというのも感じています。参加者の中には会ったことのある方々も多く、向こうから「久しぶり」や「楽しみにしてたよ」と声をかけていただくこともあり、継続してやっていくことの大切さを改めて感じましたね。
こうした活動を継続していき、最終的には当たり前の活動として、障がいのある人もない人も気兼ねなく集まってスポーツができるような環境にしていきたいですね。
現在の障がい者スポーツ教室のような場も、なかなかスポーツができない、自信が持てない方々にとってはとても大事なものですので、そうしたイベントも継続しながら、徐々に障がいのある方も「インクルーシブの方に行ってみようかな」とか、「ほかのスポーツ団体にも行ってみようかな」と思えるように、段階を追って、計画を立てながら活動していきたいです。
最終的には、「日野市は障がいのある方にとって住みやすく、街自体がもうユニバーサルなデザインになっているから多くの方が住んでいるんだよ」と、日野市民の皆さんにもそういう気持ちになっていただき、施設なども含めてモデルケースになっていくような、そんな活動に皆さんと一緒に取り組んでいきたいですね。
ーーありがとうございました。