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【離島の子どもたちのヒーローに】スポーツ巡回ネットワークが実現する、スポーツに触れる機会創出

スポーツ巡回ネットワーク

今回取材を行ったのは、NPO法人スポーツ巡回ネットワークの黒部雅統さん(以下、黒部)です。「スポーツの地域格差をなくしたい!」というミッションを掲げ、全国の離島や山奥で子どもたちにスポーツの楽しさを伝えています。

スポーツ巡回事業を行おうと思った理由や、小規模学校の課題やメリットについてお聞きしました。

サカイク
【スポーツ×教育】学ぶから育てるへ。スポーツを通じた人づくりとは?スポーツは子どもの成長に欠かせない大切な要素をたくさん持っています。 また、子どもがスポーツに触れることで、保護者の方にも価値のある時間にもなる。 勝利の喜びや楽しいという純粋な気持ちはもちろんですが、今回お話を伺った株式会社イースリーの取締役リテール事業部長 竹原和雄さん(以下、竹原)は「技術力の向上だけでなく人間力の向上にも作用する。そして、スポーツは人々を繋ぎ幸せを育むきっかけになる」とおっしゃいました。 「学ぶ」から「育てる」へ。...

離島の子どもたちに、スポーツの楽しさを

ーー子どもたちの指導に携わることを決めた背景を教えてください。

黒部)大学卒業時にフットサル場を徳島に作ることを任されたことがきっかけです。当時兄がサッカーの日本代表選手(黒部光昭氏)だったということも理由の一つですね。そこで大人や子ども向けのサッカースクールを運営するようになり、指導者としてのキャリアがスタートしました。それから、ほどなくして保育園などを巡るスポーツの巡回指導が始まったんです。

ーー離島を回るスポーツ巡回事業を行おうと思った理由はなんでしょうか。

黒部)“誰もやっていなかった”ということが大きいですね。需要はあるけれど、交通の便や離島の巡回はやはりハードルが高い面もあり、なかなか手を挙げる人がいませんでした。
ですが、私はその巡回を楽しんで取り組むことができました。過疎地への初めての巡回活動は全校生徒が6人しかいない小学校だったのですが、新しい地域で新しい子どもたちと出会うことや、活動を通して得られる子どもたちの笑顔にやりがいを感じられたんです。

チャンス・フォー・チルドレン
「体験の機会をすべての子どもに」チャンス・フォー・チルドレンが挑む体験格差への取り組み近年、子どもの貧困問題が社会的に注目される中、「体験格差」という問題が浮上しています。「体験格差」は子どもたちが生まれ育つ環境により、スポーツをはじめとしたさまざまな体験の機会に大きな格差が生じていることを表す言葉です。 「体験格差」の実態とは何か。スポーツのような体験が子どもたちに与える影響とは何か。そして、この課題を解消するためにはどのような取り組みが必要なのか。 体験格差是正に取り組む団体である、公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事の今井悠介さん(以下、今井)へのインタビューを通じて、この重要な課題に迫ります。...

離島の子どもたちが本当に求めていること

ーー徳島市内で行う指導との違いは、どのようなところに感じましたか?

黒部)技術的な面で言うと、クラブチームなどはない地域なので市内と比べると差はありました。
ですが、一番驚いたのが子どもたちの純粋さです。市内の子どもたちは、いろいろな人が来ることに慣れているのに対して、彼らは「すごい人が外から来てくれる!」と言う憧れの心を持って私たちを待っていてくれるんです。プロでもないのに。
「サッカーが上手いコーチが来てくれるぞ」と楽しみにしてくれていることは、やっぱり嬉しいですよね。離島に人が訪れる価値の大きさを感じ、嬉しいことだなと思う反面、“人に慣れる”ということに対する格差は課題としても感じました。

ーー黒部さんの思う、離島の子どもたちのスポーツ環境への課題はどのようなものですか?

黒部)公式戦ができるメンバーが揃わないことでしょうか。実際に離島の子どもたちのほとんどが公式戦を経験したことがありません。
「サッカーの試合をしたことがある!」と、子どもたちが胸を張って言えるように、この課題に対しては特にこだわって取り組んでいます。例えば、8人制サッカーをする場合、16人のプレーヤーが必要になりますよね。そのときは掃除のおばちゃんや学校の先生など、協力してくださる人を見つけて試合に参加してもらうんです。

スポーツ巡回ネットワーク

黒部)実際にゴールを決めたりするのは子どもたちであり、それは人数が少なくても可能なことですが、「公式戦ができた」ということに大きな意味があると思っています。

「今後、公式戦をしたことがあるか?、と聞かれたら『ある』と答えていいんだよ。これがサッカーだよ。」と試合後は必ず子どもたちに伝えています。すごく嬉しそうな顔をしてくれるので、ここはこれからもこだわり続けたいですね。

ーー公式戦ができた!という経験は子どもたちにとって素晴らしいものですね。NPO法人として、スポーツ以外の部分で取り組んでいることはありますか?

黒部)コミュニケーションを充実させるために昼休みを使った取り組みを9月から実施予定です。

その取り組みは、4つの小学校とオンラインを繋ぐ機会をつくり、僕たちはMC的な役割で子どもたちのコミュニケーションをサポートします。「こっちは晴れているけどそっちの小学校は大雨だね」とか、「こっちは暑いけどそっちは過ごしやすいの?」など、離れた小学校がオンラインで繋がることで小規模でもたくさんの子どもと関わる機会を提供できるのではと考えています。
テスト的に実施するのでまだ反応はわかりませんが、“人に慣れる”ということの格差をなくす手段の一つとなれば嬉しいです。

小規模学校だからこそ経験できること

ーー今後、黒部さんが目指していきたいビジョンを聞かせてください。

黒部)「小規模の学校に通う方が、都会の学校よりもたくさんの経験が得られる」と社会で言われるくらいの環境づくりに取り組んでいきたいです。“格差”と言われていますが、その格差が逆にプラスになることもあると思うんです。

友人と一緒に映画を観に行く、などの機会を作れるかどうかも経験格差の一つだとは思いますが、「学校にこんな先生が来てくれた」「違う学校の子とオンラインを繋いでこんなことを話した」という機会も、作れるかつくれないかによって立派な経験格差になっていきます。

暮らすということを考えたときの一つの選択肢として離島が上がるようになれば嬉しいですね。

ーー小規模学校だからこその良い点は、どんなところがあるのでしょうか。

黒部)人数が少ないからこそやらなければいけない役割も多くなってくるので、子どもたちは主体性に富んでいます。そこに“たくさんの人とコミュニケーションを取る力”がつけば小規模の小学校で学ぶ価値は大いにあると考えています。

その課題を解決するためにやっていきたいと考えているのが、365日、専門性を持った違う先生が離島にやってくるシステムです。例えば月曜日はスポーツのプロが、火曜日は音楽のプロが…というように、いろいろな人が来てコミュニケーションを取る手助けに、そしてスキルを間近で学ぶきっかけにできたらと考えています。

大人数の学校よりもコミュニケーション量もスキルを学ぶ量も実質増えるので、これが実現できたら小規模学校にとって大きな一歩となるはずです。なかには、子育ての理由として離島を選んでくれる保護者の方も出てくるのではないかなと思っています。

スポーツ巡回ネットワーク

スポーツ巡回ネットワークを広げていくために

ーースポーツ巡回ネットワークさんの現在の課題はなんでしょうか。

黒部)仲間集めですね。正直今の私たちの力では今の巡回数が限界です。年間400回ほど徳島県内を巡回をしていますが、全国へ活動を広げることや、本当の意味での課題解決を考えるとまだまだ足りません。
理想は、私がマネタイズに注力をして、他スタッフに私がやってきた巡回事業を引き継ぐことですが、まだまだ実現は難しいと感じています。もっと発信に力を入れて、活動も継続することで、能動的に動いてくださる人を増やしていきたいと考えています。

また、地域の人との交流にももっと力を入れていきたいです。私が巡回をするときに心がけているのは島の住民全員と関わりを持つこと。住民の方々と、「この地域の課題はなんなのか」ということを一緒になって考えることで、課題の解決の糸口も見つかりやすくなるのではないかと感じています。地域の住民が主体となって盛り上げることで結束力も高まりますし、今の子どもたちはもちろん、2-3年後の子どもたちのためにもなるんです。

ーーこの活動を通して、黒部さん自身に起こった良い影響などがあれば教えてください。

黒部)この分野の先駆者となれていることですね。「黒部さんにアドバイスをもらいたい」とお声掛けいただくことが最近とても増えてきています。
どの分野にも研究者や活動家がいると思いますが、スポーツ巡回事業では、私がパイオニア的立ち位置にいられているんだなと、とてもやりがいに感じています。スポンサーも増えると違う地域に行くこともできるので、これからも走り続けたいなと思っています。

ーーありがとうございました!

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