私たちの想い

柔道×オンラインで拓く未来の教育

judo3.0 サムネイル

編集部より

新型コロナにより、オフラインでの活動がしづらくなっている今、オンラインでの活動で、考える機会、有志が集う機会を増やし続ける団体があります。

コロナ禍になってからのべ2000人以上が参加、柔道に関するさまざまなオンライン講座を運営するNPO法人judo3.0。柔道を通じて、目指す世界とは?

代表理事の酒井重義さんに、活動やその想いについて教えていただきました。

1. 柔道に関するオンライン講座とは?

コロナ禍になってからは、毎週、ビデオ会議を使った様々なオンライン講座やイベントを開催しています。大きく分けて3つの内容で実施しています。

①さまざまなテーマでゲストの話を聞きながら話し合っていく講座で、対話を重視しています。

②発達障がいと柔道指導をテーマにした講座で、インクルーシブな教育を目指しています。

③日本の生徒と海外の生徒のオンライン柔道交流などで、グローバルな教育を目指しています。

1つ目の対話を重視した講座について、2021年5月の場合、以下のような講座を開催しています。

・「思春期の女子がイヤな思いをしないために」川原久乃氏(埼玉県女子柔道振興委員会)
・「なぜ勝つことを一旦やめたのか?スポーツをインクルーシブにする方法」長野敏秀氏(愛媛 ユニバーサル柔道アカデミー)
・「柔道の素晴らしさはどうやったら伝わるのか?日本を飛び立ってヨーロッパで柔道を教えてみて分かったこと」島達人氏(スイス JUDO KWAI LAUSANNE)
・「なぜ50代から始めた柔道がこんなにも楽しいのか?」竹熊カツマタ麻子氏(筑波大学教授)
・「部活動の柔道ってこれでいいの!?」藤野 信行氏(横浜市立中学校 柔道部顧問)
・「全中・インターハイに柔道クラブが参加!?」参加者ディスカッション

judo3.0_思春期の女子がイヤな思いをしないために毎週金曜日の夜、そして不定期で他の曜日に、誰でも自由に参加できる勉強会兼交流会として開催しています。

お話をしてくださるゲストの協力があって成り立つのですが、誰もが先生になったり生徒になったりしながら学び合うことができる場を目指して運営しています。

2.発達障がい×柔道が必要とされる理由

コロナ禍の前は、柔道の指導者向けに発達に凸凹のある子どもへの指導法のワークショップを開催していました。

judo3.0_ワークショップコロナ禍になってからは、オンライン上の勉強会を開催したほか、2021年2月に、少年柔道クラブ、学校、福祉移設、医療機関、海外の柔道クラブなど、様々な領域で発達に凸凹のある子供の柔道指導に関わっている16名の指導者のお話を伺う、というイベント(発達が気になる子が輝く柔道サミット)を開催しました。

※プレスリリース「発達障害×柔道のサミットを2月21日にオンラインで開催。16名の指導者が発達に凸凹のある子供の成長を報告!」

なぜ、発達障害に関する学びに力を入れているかというと、柔道やスポーツに担ってほしい役割があると考えているからです。

文部科学省の調査によると、小中学生の約6.5%、約60万人の子どもたちに発達障がいの可能性があると言われています。そして、最近は脳の研究などが進み、運動が子どもたちの発達にさまざまなよい効果があることが明らかになってきています。したがって、地域で発達に凸凹のある子どもたちが柔道やスポーツを楽しむことができる環境を作っていくことが必要なのですが、まだその環境は整っていません。

ただ発達障がいに関する情報はたくさんあっても、柔道やスポーツの指導者の視点で整理されたものがなかなか見当たりませんでした。そこで、発達障がいに関する専門的な知見をもつ柔道の先生とチームを組ませていただき、柔道指導するうえで最も効果的な知識や視点は何かを吟味しながらワークショップを作り、昨年5月には「発達が気になる子が輝く柔道&スポーツの指導法」を出版しました。

judo3.0_指導法発達が気になる子が輝く柔道&スポーツの指導法

いまできることは、発達障がいと柔道・スポーツに関する有志のネットワークを拡げていくことだと思い、オンライン講座やイベントを開催しています。

3.グローバルな教育としての柔道の可能性

海外の柔道クラブと日本の柔道クラブをビデオ会議でつないで合同のトレーニングをしたり、2、3か国の生徒が集まってオンライン上で勉強したりする機会を作ってきました。

コロナ禍の前は、日本の少年少女が海外で柔道をしたり、海外の少年少女が日本に来て柔道したり、という子どもたちの国際柔道交流をサポートしてきました。

judo3.0_グローバル

スポーツ全般に言えることだと思いますが、一緒に身体を動かすと言語や文化などの違いを乗り越えて相手と仲良くなることができます。こういった冒険は子どもたちの成長に有益であり、いわゆる「グローバル教育」として必要な機会だと思っています。

特に柔道は日本が発祥国であるため、海外の柔道の先生が「本場である日本に自分の生徒を連れて行きたい」と生徒を日本に連れて来てくれたり、「日本から来た」というだけで日本の少年少女が海外の柔道コミュニティで歓迎されたりします。

こういったグローバル教育としての柔道の特性を活かし、日本のそれぞれの地域が世界の柔道少年少女の学び場になったり、「これからは英語と柔道だよね」と言われるようになったら素敵だと思って活動しています。

4.活動の狙い:柔道に3回目のイノベーションを

judo3.0という名称には、柔道に3回目のバージョンアップ、3度目のイノベーションを興そう、という意味が込めています。

江戸から明治に変わったとき、戦場の殺傷術だった柔術は、近代教育とともに「体育」として再構築されました。その後、オリンピックの競技種目となったことに象徴されるように、マスメディアとともに「競技スポーツ」として発展してきました。

この2つのイノベーションのおかげで、日本の教育文化を内包する柔道は世界200以上の国と地域に広がり、5,000万人以上の人々が関わる教育コミュニティを作り出しました。

この巨大な教育コミュニティから、「体育」や「スポーツ」にとどまらない、総合的な教育、次世代の公教育をつくっていこう、というのが私たちの考えている3番目のイノベーションであり、柔道を通じて世界中の人々とつながる機会や柔道を通じたソーシャルインクルージョンはこれからの教育として最も大事な要素だと考えています。

5.運動のもつ効果を社会で最大化したいという想い

私は漠然と世の中の役に立ちたいと思い、以前は弁護士として活動していましたが、精神的につらいとき、運動をしてすっきりしたら不安が消えた、ということに気づいてから運動と脳の関係に関心をもつようになりました。

神経学者ジョンJレイティ博士の著書「脳を鍛えるには運動しかない」(NHK出版)に大きな影響を受けたのですが、運動のさまざまな効果やメカニズムを知ることで、運動がもつ可能性が社会で充分に活かされていないと感じるようになりました。

例えば、運動は抗うつ剤と同じような効果がある、という研究がありますが、友人が精神的につらそうなとき「一緒に運動しようか」と誘うケースは珍しいのではないでしょうか。また、子どもが何か問題行動を起こしたとき、「静かにじっとしていなさい」と言うことはあっても、発達に必要な運動が足りていないのではないかと考え、「外で一緒に遊ぼうか」と誘うケースも少ないと思います。

このように、運動の可能性をどうやったら社会で最大化できるか、という視点で考えるようになったとき、見ず知らずの土地に引っ越しをして、近所の道場で柔道を始めたら友人ができた経験を思い出し、柔道の非言語コミュニケーションとしての機能やコミュニティとしての側面に注目するようになりました。そこで、試しにアメリカに行って柔道場を巡ってみたのですが、アポなしで言葉もうまく通じないにも関わらず、各地で歓迎され、柔道でつながる、を実体験しました。これがjudo3.0の活動のきっかけになっています。

6.コロナ禍で生まれたチャンスを活かす

コロナ禍によって生じた変化で重要な点は、世界的にビデオ会議システムを利用する人々、オンライン教育を活用する人々が増えたことだと思います。

コロナ禍になってリアルの活動がすべて中止になり、これまで無我夢中でオンライン講座やイベントを開催してきましたが、振り返ると、オンライン上の学びによって、柔道教育がより良いものになっていく実感があります。

したがって、まずは、対象やテーマごとにオンラインだからこそ作ることができる学びをもっと豊かにして、日本各地の、そして、世界各地の柔道関係者がオンライン上で学んだり、つながったりする機会を増やしていきたいと思っています。

酒井重義
NPO法人judo3.0

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA