JICAのスポーツを通じた社会貢献活動についての連載です。
前回の第4回大会に続き、南スーダン全国スポーツ大会の第5回大会について、前編・後編と分けて掲載します。
今回は、後編になります。
スポーツを通じて『平和への思いを行動にする』南スーダンの取り組みについて紹介します。
平和大使として平和への思いを行動に
大会期間中、競技以外にも平和と社会的結束を強める機会が随所に用意されました。全国から集まった選手たちは異なる民族的背景を持ちますが、競技会場だけでなく共同宿舎でも多くの時間を共有することで交流が活発となり、自ずと相互理解を深めていきました。
長年続く争いの影響で、信頼できるのはより同質性の高い血縁や部族などの限られたコミュニティだと話す選手も少なくないなか、スポーツを通じて異なる背景を持つ同世代の若者とつながり、異質性や多様性の中にも平和な状態が維持されると身をもって学ぶ場となりました。
また、選手を対象とする平和構築、ジェンダー、HIV/AIDS啓発をテーマとするワークショップが国際機関の企画で実施されました。「自分たちにとっての平和とは何か」、「公平で平等な社会とは何を意味するのか」についてグループに分かれて議論し、カラフルな絵や等身大の言葉でメッセージボードに想いを綴りました。
ワークショップの最後には女性の歓喜の表現であるウルレーションを取り入れた平和の歌も披露され大いに盛り上がりました。これらのワークショップで得た知識をもとに、選手たちは自身のコミュニティに帰った後、「平和大使」として民族間の融和やジェンダー平等のために活躍する予定です。
今回作成されたメッセージボードは開会式、閉会式の入場行進で彼ら自身の手で掲げられ、「We are peacemaker(私たちは平和の作り手だ)」「Give us pen, not gun(銃ではなく、ペンをください)」「No more guns, it’s time for peace(銃はもういらない。今こそ平和をつくる時)」などのシンプルながら心に響くメッセージを来場者に伝えました。
このほか、スポーツ省はJICAやパートナーと連携し、コミュニティに平和と結束を呼びかけるプレイベントを3回開催し、大会期間中及び前後には、南スーダンの公営テレビ放送やラジオ局を通じて平和へのメッセージを全国に届けました。
選手は、「大会は南スーダンの青少年の人生を変えた」、「大会は青少年を結束させ、心に平和をもたらした」、「ともに歩みこの国の未来を築こう、スポーツと平和のメッセージを通して」、「私たちが『南スーダン人』として手を携えて力を合わせたなら、平和を手に入れることができる、スポーツはあらゆる場所で子どもたちからも愛されているから。私たちの間にある差別と決別しよう」と話しました。
今回、過去大会に参加したことのある選手への聞き取り調査を実施したところ、コミュニティに戻った後に平和について自分の所属するチーム、コミュニティやラジオで話しをする、学校や家庭で身近な人と語り合うなど何かしらの行動を起こした選手が8割にものぼることが分かりました。大会を通して、選手の意識と行動に前向きな変化が確かに生まれています。
前橋で五輪代表合宿に励む先輩たち
今年で5回となる本大会の過去の参加者からは南スーダン代表選手が輩出されました。現在、東京五輪・パラリンピックに向けて、陸上選手4名(女子1名、男子2名、男子パラ1名)とコーチ1名の選手団が、ホストタウンである群馬県前橋市で長期事前合宿を行っています。いずれの選手も過去大会で活躍し成績を残した「先輩」です。
陸上男子1500メートルのアブラハム選手は、この大会の開催を知った日から自身の陸上人生が始まり、大会での活躍を経て今では国を代表する選手となったこと、よりよい練習環境を求めて来日するチャンスを得たことについて、JICAそして日本国民の支援を生涯忘れることはないと語ります。
五輪で活躍して母国南スーダンに平和のメッセージを届けたいと日々練習に打ち込む彼らの姿は、多くの人の心を打ち、日本国内で支援の輪が広がっています。
大会から世界に羽ばたいた彼らはスポーツには人をつなぐ力があることを体現する存在となっています。
独立以来、南スーダン国内の対立によって多くの青少年、若者が暴力にさらされ傷つきました。JICAはスポーツを通じて一人でも多くの青少年が平和大使となり、彼らが属するコミュニティに変化をもたらす平和の担い手に育っていくよう、これからもスポーツ省や関係パートナーとともにスポーツを通じた平和促進事業に取り組んでいきます。
■出典元:『第5回南スーダン全国スポーツ大会「国民結束の日」の開催-平和への思いを行動に-』https://www.jica.go.jp/south_sudan/office/information/event/20200616.html
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