私たちの想い

【Vol.3】アートを生きる力に | ~『存在論的人間観』を大事に~

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【編集担当からのメッセージ】
仕事ができた・できないという結果が、人の優劣を決めてしまったり、その延長線上で「人格の優劣」まで決めてしかねない・・・・・ドキッとする言葉です。振り返ると、自分がそのど真ん中にいたような気がします。スポーツを軸にした仕事に携わるようになって、ものの見方・見え方が大きく変わったことに気づきます。
人が人らしく、自分が自分らしくあるために、私も体験してみたくなりました。

『存在論的人間観』を大事に

臨床美術(クリニカルアート)は日本発祥のアートセラピーです。

絵やオブジェの作品を楽しんで創作することにより右脳の活性化を促し、認知症状を改善するために開発されました。
臨床美術は子供から大人まで幅広い現場で実施されています。実際の現場での様子も交えて私の思う臨床美術の良さをお伝えしていきたいと思います。

臨床美術には、大切にしている理念のようなものがあります。臨床美術士になるための講座の初めに学ぶ「存在論的人間観」です。臨床美術の創設時期から関わってこられた認知症患者の介護家族のグループカウンセリングを担当されていた関根一夫先生が発案されたものです。初めて聞いたときは、7文字漢字で難しそうというのが印象でした。

“何ができるかではなく、その人の存在そのものを喜ぶ。そこにいてくれることを感謝する。それが、「存在論的人間観」です”(臨床美術士養成講座/芸術造形研究所)

臨床美術_アート2存在論的人間観の対にあるのが、「機能的人間観」です。「〇〇が出来る」「〇〇が出来ない」で人を比較して評価をすることです。実は、この機能的人間観の中に私たちはほぼ生きているように思います。私も会社勤めで日系と外資系の会社で働いていた時に、営業系の仕事であったということもあり、数字の結果が全てでした。高い数字を残す人は優秀で、そうでない人は何かが劣っていると判断されます。それが時に仕事の結果だけでなく、その人の人格へ評価のように捉えられたりします。会社だけでなく、学校でも、友人関係の中でも、「Aさんは〇〇が出来るけど、Bさんは出来ない」など、私たちの社会の多くが機能的人間観に立って人を見ているところがあると思います。

臨床美術は、認知症を専門とした脳外科医の医師と芸術家の出会いからスタートしています。認知症状を発症すると、今まで普通に出来ていたことが少しずつ出来なくなってきます。しかし、感情やプライドはしっかり残っています。出来なくなる事による不安を感じているのは誰よりもご自身で、自信もなくされていきます。だからこそ、臨床美術では、存在論的人間観という理念を持ってクライアントと向き合うことがとても大切になります。

実は、認知症の方や障がいを持たれた方だけでなく、誰もが機能的人間観で自分を見られるよりも、存在そのものを肯定してもらって、「あなたはあなたのままで良い。」「そこにいてくれてありがとう」と言ってもらえると安心して生きていけます。また、これは他の方にだけ向けるものではなく、自分自身へのものでもあると思います。「自分は自分で良い」と思える事により自己肯定感が保てて、希望やエネルギーが湧きます。自分を大切にすることはとても大切だと思います。

臨床美術士は、「存在論的人間観」の姿勢でいつもセッションに臨んでいます。作品のうまいも下手もなく、一人ひとりが表現している独特な魅力を見つめていきます。私も今では、「存在論的人間観」というこの7文字の漢字に愛着を感じ、とても大切にしていきたいと思っています。

先月もいつもの生涯学習センターで大人の方々を対象に臨床美術のクラスを行うことが出来ました。コロナで大変な時だからこそ、感染対策をしっかりして、少しでもリラックスして癒される楽しい場作りができればと思っています。今回は、アートプログラムの「ファンタスティックトナカイ」を制作しました。

臨床美術_アート3

臨床美術の面白さは、テーマや画材や工程がその都度違っていて、扱う画材もとても拘って設定されています。今回は扱いやすい石膏を使いました。クライアントの皆さん、「今」「ここ」に集中して楽しい時間を過ごして頂けたようでした。

アートで表現することは心を癒します。生きる力は一つでも沢山ある方が良い!

今後も臨床美術の魅力について発信をしていきいと思います。色々な方にぜひ一度体験をしてみて欲しいと思います。

—京都在住・アートひろばtomo主催 臨床美術士 Tomoko—

 

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