【編集担当からのメッセージ】
「臨床美術」の一般的認知を上げていきたい、その特徴・効果をできるだけ多くの人に知って欲しいという思いでこのコーナーが始まりました。
臨床美術士としてにご自身がなろうと思ったきっかけや、実際のワークにおける体験談を交えながら皆さんにお伝えしていきたいと考えています。
SDGsの観点とも親和性が高く、実体験者が増えれば増えるほど心豊かで穏やかな社会の実現に近づいていくのではないかと感じています。
臨床美術の良さ~五感をフルに活用して~
臨床美術(クリニカルアート)は日本発祥のアートセラピーです。
絵やオブジェの作品を楽しんで創作することにより右脳の活性化を促し、認知症状を改善するために開発されました。上手も下手もありません。作品を評価したり分析したりする事もありません。
作品を完成することが目標ではなく制作過程を大切にします。臨床美術士が臨床美術の独自のアートプログラムを実践して、クライアントの感性を引き出しながらその創作活動に寄り添います。アートを楽しく表現することで、クライアントの生きる意欲の創出に繋げていくことを目指します。
臨床美術は子供から大人まで幅広い現場で実施されています。実際の現場での様子も交えて臨床美術の良さをお伝えしていきたいと思います。
リアルなクラスで実践されてきた臨床美術ですが、現在のコロナ下ではリアルは難しい現場が沢山あります。特に高齢者施設での実施はここ数ヶ月お休みになっているところが多いです。しかし、地元の生涯学習の施設内で、コロナ対策をした上で、大人クラスを実施することが出来きました。
30代から70代まで幅広い年齢の方々の5名が参加され、紫キャベツを切った迷路のような断面を表現しました。臨床美術では素材を「見る」だけではなく、触ったり、匂いを嗅いだり、時には味わったりしながら五感をフルに活かして感じることを大切にしています。
臨床美術士の行うデモンストレーションを見ながら、クライアントが使いたい色を選択し、自分の感じる線、点、面を表現していきます。描き始めは少しドキドキして戸惑う事もありますが、手を動かしていると目の前の自分の表現に集中していきます。ゾーンに入るような感じでしょうか。
「今」「ここ」に集中していると、1時間半ほどの時間があっという間に感じます。
初参加だったAさんにとっては、中学校以来のアート制作でした。後で感想を聞くと、紫キャベツの断面を描くと知った時には、「難しそうで、来なければ良かった。」と思われたそうです。
そんなAさんも画面が出来てくると楽しくなって来られて、とても集中されていました。思うように行かない時や次をどうするか迷って手が止まってしまうこともありますが、そんな時には臨床美術士が関わり、制作途中の作品の良いところや特徴を伝え、一緒に作品を眺めながらクライアントの中からの閃きや気持ちが湧いてくるのに寄り添います。
仕上げに自分のサインを作品に入れます。グッと作品への思い入れが強くなります。
クラスの最後に行う観賞会では、皆の作品を前に並べて、主に臨床美術士が1点ずつの作品の特徴や良いところのコメントをします。クライアントの方々は、前に並べられている自分の作品の仕上がりに思わず笑顔になります。そして、他の方々の作品のどれもが個性的で味わい深い作品であることに気づきます。
Aさんも「こんなふうに出来ると思ってもいませんでした。とても嬉しいです。」とおっしゃっていました。
臨床美術では、毎回、テーマ、技法、材料や画材が違うため、その都度に違った味わいのある、自分がゼロから作ったアート作品が生活の中に増えてきます。家の玄関や自分の部屋や、仕事のデスクにその作品を飾って眺めていると不思議に心が落ち着きます。高揚感を感じる事もあります。
自分の作品に囲まれて生活するのは、ある一部の芸術家に与えられた特権ではなく、誰もが体験できる事なのです。
アートセラピーは芸術療法の中の美術療法です。欧米の美術療法と日本発祥の臨床美術の違いは、出来上がった作品の「分析をしない」というところです。
また、欧米の美術療法では、使う画材は特に決まっていませんが、臨床美術を行う時には、専用に開発された画材を使います。
オイルパステル、アクリラガシュ、水彩絵の具は、アートセラピストにより、色と描きやすさにこだわって開発されています。その素材は、世界で認められた安全基準に適合しており、子供や認知症の方々が誤って口元に持って行かれても安心なように作られています。
緻密に作られたアートプログラムとプログラムに精通した臨床美術士、そして、より制作を楽しく安全にしてくれる画材が臨床美術の特徴でもあると思います。
次回は、臨床美術士が臨床美術を行う上でとても大切にしていること(理念のようなもの)についてもお伝えしたいと思います。
アートで表現することは心を癒します。
そして生きる力は一つでも沢山ある方が良い!
今後も臨床美術の魅力について発信をしていきいと思います。色々な方にぜひ一度体験をしてみて欲しいと思います。
—京都在住・アートひろばtomo主催 臨床美術士 Tomoko—