ビオトープ(Biotope)とは本来その地域に住むさまざまな生物が安定して生息できる空間のことです。近年はビオトープの保全や復元を行う活動が広がっており、重要なキーワードとなっています。今回はビオトープとは何か、なぜ必要なのかについてわかりやすく解説していきます。
ビオトープとは
日本大百科全書(ニッポニカ)によると、
『ビオトープの本来の意味は「野生生物の生息する空間」だが、ことばをかえていえば、生態系としてとらえることの可能な最小の地理的単位である。』と明記されています。
つまり、空間の大きさに関わらず動植物が安定して生息することのできる空間であると言えます。
ギリシャ語で「生物」という意味の「bios」と「命」という意味の「topos」を組み合わせた言葉で、1908年にドイツの動物地理学者であるフリードリヒ・ダール教授が最初に言ったとされています。ビオトープの本場とされているドイツでは環境問題が深刻化した1970年代頃から注目されるようになりました。
ビオトープはなぜ必要?
その昔、防災のために行われたコンクリートの護岸工事によって水辺の植物が枯れ、周辺の生物たちが生息できない環境となってしまったことがあります。結果、生物がいなくなったことで水質は悪化し、水を使う人間にも悪影響が及びました。
このような状況を打破するため、ビオトープ(=生物の生息空間)を保全していくことが注目されました。
「人間が防災などのために自然を抑制する」という考えから「ビオトープを元の状態に戻したり、作ったりしつつ人間に必要な抑制もする」という考えにシフトしていったのです。
日本におけるビオトープの現状
ビオトープの考え方は20世紀末頃から日本においても広がっており、干潟や湿地など地域の自然を活用したビオトープが形成されています。国としては、国土交通省による河川やダムなどの公共事業の整備とともにビオトープの復元を行っています。
ビオトープの事例①青森県
2002年に青森環状道路建設の際に、絶滅危惧種Ⅱに指定されているメダカの保護を目的としたビオトープである「共生の郷 メダカ郷和国」を開園しました。ビオトープの形成は生物の習慣に合った空間であることが重要なので、メダカにとって生息しやすくなるための工夫がなされています。
共生の郷 メダカ郷和国|メダカ水路 (mlit.go.jp)
ビオトープの事例②北海道 帯広市
下頃辺川の洪水を防ぐための工事では、アクア・グリーン・ストラテジー(AGS)の考えに基づいて、自然型ビオトープを取り入れた川づくりを行いました。川の幅を調整するために石を用いたり、河岸部の護岸を土で覆うことで緑の再生を促したりしています。
治水事業 多自然川づくり |帯広開発建設部 (mlit.go.jp)
身近なビオトープ
上記のように規模の大きいビオトープもありますが、ビオトープの形成を趣味として行うこともできます。
ビオトープが身近にあることで、自然の癒しをより感じることができます。規模の大小に関わらず生物が安定して生息できる空間であるビオトープは、自分自身で作り出すことができるのです。
庭に石を積んで小さな池を作り、そこに水草や生物を生息させることでオリジナルのビオトープを形成することができます。また、土台を鉢に変えれば家の中で眺めることのできるビオトープになります。生物は、メダカ・タニシ・ドジョウ・エビが多く飼われています。
ビオトープは地域から家庭まで幅広い規模で形成することができ、人間と自然が共存していくために必要不可欠なものなのです。