「女性の力をエンパワーメントする。」
多くの女性スポーツチームが掲げているこの目標に、なでしこリーグに所属する大和シルフィードは女子サッカークラブとして、地域のスポーツチームとしてさまざまな取り組みを行っています。地域の企業との取り組みだけでなく、大日本印刷などの大企業との取り組み、プロテニスプレイヤー大坂なおみさんが支援する『プレー・アカデミーwith大坂なおみ』の取り組みなど、多くの注目が集まっています。
大和シルフィードが女性スポーツチームとして、地域のスポーツチームとしてこれからどのような未来を描いていくのか?このクラブ出身で、代表取締役に就任した橋本紀代子さん(以下、橋本)、女子サッカーファンでこのクラブの広報担当として入社した川中真優さん(以下、川中)にお話を伺いました。
「女の子にサッカーができる環境を」クラブの根底に流れるフィロソフィー
ーー大和シルフィードはどんなクラブですか?
橋本)大和シルフィードは、小学生のときにサッカーをしていた女の子が、中学に上がるタイミングで活動場所がなくなってしまうという課題を解決したい想いから始まりました。当時、のちに2011年FIFA女子ワールドカップ優勝メンバーとなる川澄奈穂美選手、上尾野辺めぐみ選手(ともに現・アルビレックス新潟レディース)という才能が地域にいる中で、まわりの大人が「2人を辞めさせるわけにはいかない。サッカーを続けられる環境をつくらなければ。」と立ち上がり、1998年に大和シルフィードが創設されました。
そうした前提があるので、クラブとしてはトップチームができたりパートナーが増えたりと発展していますが、「子どもたち、女の子がサッカーを続けて活躍できる場所を作りたい」という想いが一番の根底に流れています。
ーー橋本さんご自身も大和シルフィードのご出身ですよね。
橋本)4期生として入団し、中学・高校時代はシルフィードでサッカーをしていました。当時はできたばかりのクラブでもあったので、ボランティアのお父さんコーチが教えてくれるような形でしたが、サッカーをやりたい子たちが集まるこうした環境・場所があったことはとてもありがたいことでした。また、川澄選手、上尾野辺選手という見本になるような選手が3つ上の代にいたので、先輩たちを見ながら学んで上達できるような環境でもありましたね。
ーーその後、またシルフィードに選手・そしてスタッフとして戻って来るんですよね。
橋本)大学、そしてイタリアでの挑戦を経て、現役最後にはシルフィードのトップチームで1年間プレーしました。サッカー選手をしながら次のキャリアについても考えている中で、「スポーツを通じて人々が幸せになるような仕事をしたい」という私の想いと、シルフィードがクラブとして地域に対して取り組んでいることが一致したことだけでなく、昔ともに汗を流した信用できる仲間たちがスタッフにいたこともあり、2019年から大和シルフィードのスタッフとしての仕事を始めました。
女子サッカー界・大和シルフィードの変化
ーー橋本さんがスタッフとして関わるようになってから、女子サッカー界も変わり、大和シルフィードもさまざまな発展を遂げてきました。WEリーグの創設も大きなきっかけになったのでしょうか?
橋本)そうですね。WEリーグが創設されることになり、クラブとしてもそこを目指す上で改めて地域・スポンサーさんとともに体制を強化し、前社長の大多和亮介さんを加えてさまざまなアクションに急ピッチで取り組むようになりました。大坂なおみさんの団体と一緒に行う『ガールズエンパワーメントプロジェクト』、LGBTQ+の啓発を目指した『プライドマッチ』の実施、インクルーシブなスタジアムづくりなど、シルフィードがやりたいこと、想いはあるけどいままで具現化されていなかったことを本当にたくさん詰め込んで、形にしてきました。
現在クラブとしては『3つのウーマン・エンパワーメント』として“選手“・“パートナー企業の女性社員”・“女の子たち”をエンパワーメントするためのアクションを事業として取り組んでいます。
ーーこうした新しい動きに対し、多くのパートナーとともに取り組まれていることも印象的です。
橋本)これまで同様、総合型スポーツクラブとして地域の人たちのために活動することは変わっていません。“地域”というキーワードで一緒に盛り上げていただく活動と、広くウーマン・エンパワーメントのための取り組みと、その両面で今の大和シルフィードができています。
女子サッカーに熱中する“新・広報”誕生
ーーこの10月から大和シルフィードの広報に就任した川中さん。どのような経緯で入社されたのですか?
川中)大学を9月末に卒業後、大和シルフィードに入社しました。もともと女子サッカーが大好きで、「好きなことを仕事にしたい!」と思い、女子サッカーチームでの就職を探していました。
ーー川中さんはSNSでも積極的に女子サッカーの情報を発信されている“女子サッカーファン”ですよね。女子サッカーを好きになったきっかけはなんだったのでしょうか?
川中)2011年女子ワールドカップでの日本の優勝です。当時小学生で、テレビでも見ない日はないほど女子サッカー選手たちが出ていて、それをきっかけに好きになりました。私の住んでいた福岡から、大好きな川澄奈穂美選手の試合や練習を観に年に1回神戸まで行ったり、福岡のチームの試合を観に行くなど、まわりの子たちがゲームなどにハマっている中、私は女子サッカーにハマっていましたね。
大学も、女子サッカーをたくさん観るために関東の大学を志望しました(笑)。これまで貯めていたお年玉とバイト代を使って、ワールドカップやオリンピックにも観戦に行ったりもしました。
ーー大好きな川澄選手の出身クラブである大和シルフィードに就職というのも、縁を感じますね。女子サッカーファンである川中さんから見たシルフィードの魅力はどのようなところにありますか?
川中)一昨年、日産スタジアムでの試合の際に、『カメラマン体験イベント』に参加させていただきました。私自身カメラが趣味なのでとても貴重な体験でしたし、そうしたイベントが充実していることやファンサービスが充実していることも好きな要素の一つでした。
実際に入社してみて、プライドマッチなど外から見えるものではなく、『セーフガーディングポリシー』の策定など、私たちスタッフやユース・ジュニアユースの子たちの心の安全を守ってくれているところなど、サッカー以外の面でも素晴らしい取り組みが多いと感じています。
“好きなこと”に飛び込んでみてよかったなと思っています。
女性がリーダーシップをとること
ーー橋本さんは、大和シルフィードの社長として2024年から就任しています。女性スポーツの世界でも、橋本さんのような女性の経営者、女性指導者も増えてきていますよね。
橋本)いまでも男性のGMとともに企業などに挨拶に行くと、私ではなくGMを社長だと思っていた、ということがよくあります。自分でも覚悟していたことですし、まわりからそう見られることもあるのはわかっているのですが、もっと頑張らなければいけないなと思わされますね(笑)。
もう少し広く見ると、そもそも女性側が「私なんかが社長には見られないだろう」と思ってしまっていることが多いと感じています。『2022年度JFA女性リーダーシッププログラム』に参加したときに学んだのは、そうした女性側のマインドや決めつけを取っ払う必要があるということです。私自身も経営者としてまだまだ知らないことも多いですが、このポストに女性が就くことの意義は感じています。「女性で社長ができるってすごいな」と思われることもあると思いますが、世の中でもそれが普通になるように、「私なんか」という想いを取り払えるように頑張っていきたいです。
ーーこれからの大和シルフィードの展望について聞かせてください。
橋本)地域という面では、大和市が「女子サッカーの街・大和」と言われるように、しっかり足元を見つめながら取り組んでいきたいと思っています。プロ化やWEリーグなどの夢を追いながら、応援してくれる人たちを増やしていきます。
これまでもさまざまなアクションに取り組んできましたが、地域の一人ひとりを見ていくと、まだ「シルフィードを知らない」という人も多くいます。クラブを大きくするだけでなく、“地域に浸透する”こともおろそかにせず取り組んでいきたいです。
橋本)『ウーマン・エンパワーメント』という面では、とくに『ガールズエンパワーメントプロジェクト』に力を入れて取り組んでいきたいです。これまでは『プレー・アカデミーwith大坂なおみ』の助成事業としての活動でしたが、これからは地域を巻き込んだ活動に発展させたいと考えています。女の子だけでなく男の子も含め、子どもたちがスポーツを通じた体験から、人生においてスポーツがポジティブな存在となるようなものを目指していきます。
ーーありがとうございました!