福島県いわき市で130年以上の歴史を刻み、2025年に創業150周年を迎えた品川リフラ株式会社。一方、東日本大震災からの復興をきっかけに「人づくり・まちづくり」を掲げて生まれたJリーグクラブ・いわきFCは、設立から10年という節目を迎えようとしています。
それぞれ異なるフィールドで歩んできた両者ですが、いま“地域とともに生きる”という共通の想いを持ち、パートナーとして手を取り合っています。今回の対談では、品川リフラ株式会社湯本工場長の中村真さん(以下、中村)と、いわきFCを運営する株式会社いわきスポーツクラブ代表取締役の大倉智さん(以下、大倉)にインタビュー。地域との向き合い方、若者たちへの想い、そして未来をどう描くか――。
150年企業と10年クラブによる、熱量のこもったクロストークをお届けします。
130年、いわきとともに歩んで|品川リフラの地域へのまなざし
ーー2025年に150周年を迎えた品川リフラ株式会社。いわき市では130年にわたって事業を行ってきました。この地域への印象を教えてください。
品川リフラ 中村)私自身も、何度か異動もありましたがこの湯本の地で長くお仕事させていただいています。東北の一番南の地域で、穏やかでのんびりした雰囲気があり、食べ物も豊かで非常に住みやすく良いところだと感じています。
いわきFC 大倉)この地域のことを深く知ったのは、東日本大震災後、いわきにクラブを立ち上げようと動き始めた頃でした。それまでは正直、“スパリゾートハワイアンズがある街”という印象しかありませんでした。それから10年間ここに住んでいますが、気候が本当にいい地域だと感じます。サッカーができなくなるほどの雪が降ることもなく、どの季節でも前向きに体を動かそうと思えることは素晴らしい地域の特徴ですよね。
ーーそんないわきの地で長く活動されてきた品川リフラさんが、2024年から“地元のクラブ”となったいわきFCのパートナーになりました。
中村)品川リフラとして、前身の品川白煉瓦や品川リフラクトリーズの時代も含め、湯本工場野球部の活動や地域の催しには積極的に参加し、地域や人とのつながりを大切にしてきました。その甲斐もあってか、今回いわきFCさんのホームゲームでブース出店しているときも、「品川リフラさんって昔の品川白煉瓦さんですよね?」と声をかけていただくことも多く、地域とのつながりを改めて感じました。
パートナーになった背景には、時代の流れや社名変更など企業として転換点を迎えている中で、より地域に深く根を下ろしていこうとする手段の1つとして“スポーツ”そして、“いわきFC”と一緒にやっていけたらという想いがありました。
企業連携で生まれる、“クラブの力”と地域の可能性
ーーいわきFCとしては、この地域で長い歴史を持つ品川リフラさんとのパートナーシップにどのような想いを抱いていますか?
大倉)湯本の地域の歴史を紐解いていくと、炭鉱として栄えた時代があり、その副産物としての粘土質の素材の活用でも先陣を切ってきた地域だということがわかります。そんな地域に、130年もの間工場を構える企業があると知り、「ぜひ訪ねてみよう」と営業に伺ったのが最初の出会いでした。
当時の品川リフラさんは、150周年に向けてというだけでなく、中村さんがおっしゃった通り歴史の転換点にあり、変革への熱量が非常に高いなと感じたことがとても印象的でした。BtoBの会社として、露出度を高めるというよりも、私たちが一緒に会社の変革にご協力したいという想いでパートナーシップがスタートしました。
ーー品川リフラさんの“変革”という意味では、どのように状況が変わってきているのでしょうか?
中村)私たちの“耐火物”の事業は、鉄鋼などの基幹業界を支える上で非常に大きな役割を果たしています。裏方の仕事として、業界内ではご評価いただいていますが、M&Aなども含めて“セラミックスの企業”としてより幅を広げようとしています。
迅速さや柔軟性も上げていきたいと思ったときに、私たちの仕事は最終的には“人”が大きく関わります。人的な資源を上手に活用していくためにも、地域ともっと深く交流して根付いていくことが大事だと考えています。
ーーこうした企業にも、いわきFCさんだからこそできることはあるのでしょうか?
大倉)これまでのスポーツにおけるスポンサードが、広告露出で終わっていたものが、時代とともに“企業の課題を一緒に解決できるプラットフォーム”としての役割が求められるようになっています。例えば、社員にとって「みんなで応援しよう」という存在になり、熱気を生み出すことも大きなものですよね。
私たちも、設立当初と比べると本当にファン・サポーターが増えて、1試合で5,000人、年間で85,000人の方がスタジアムに足を運んでいただき、SNSをはじめとしたメディアや情報発信においても、私たちはとても近い存在になっています。行政との距離も近い私たちを、企業がやりたいことのためにどんどん使っていただくことが最たる役割だと思っています。
若者たちへ伝えたい、“ものづくりの現場”のリアル
ーー『品川リフラプレゼンマッチ』としていわきFCのホームゲームを開催するなど、両社はさまざまな形でタイアップされています。
中村)社内でも少しずつ盛り上がりが生まれてきたと感じています。湯本工場でのお祭りでは、いわきFCのアカデミーの選手たちにも手伝ってもらいました。アカデミーの選手たちも華があり、こうした方々と一緒に活動していることは社内メンバーも嬉しいですし、社外に対しても「いわきFCと一緒にやっているんだ」という印象を与えることにつながっています。
大倉)いわきFCのアカデミーの選手たちも、品川リフラさんだけでなくさまざまな企業を訪問させていただいています。社員の皆さんも喜んでいろいろと教えてくれて、子どもたちの教育という視点でもすごく意義のあることで、私たちもとてもありがたく思っています。彼らの印象にもしっかりと残ることで将来の就職にもつながる可能性がありますし、そうしたお互いによい関係を築ければと思いますね。
ーー品川リフラさんは社名をアカデミーチームの胸に入れるなど、若い子どもたちへの想いが強くあるイメージがあります。
中村)やはり若者は地域にとって財産ですし、大切にしていきたいですよね。さらに、トップチームよりも近い距離感で選手たちと一緒に活動ができることも嬉しいなと思います。
※品川リフラ株式会社は2025年10月に社名変更。今シーズンのユニフォームには、旧社名を掲載しています。ーー子どもたちへの教育という意味では、『REFRACTORIES JOURNAL』など“耐火物について伝える”コンテンツも多く出されています。
中村)もちろん私たち品川リフラのことを知ってほしいという想いもありますが、「世の中には、こんな仕事もあるんだよ」ということを知ってほしいです。
大倉)“耐火物”と言われて正直私もピンときていなかったのですが、本当にわかりやすい発信をしてくださっているので、大人の方にも、ぜひ見てもらいたい内容です。
地域と生きる、地域と創る|2つの歩みが向かう未来
ーー品川リフラさんは企業として150周年。この月日の積み重ねについて、いわきFCを10年でここまでのクラブにした大倉さんはどう感じますか?
大倉)いわきFCにとってのこの10年も非常に大変なものでしたが、150年はなかなか想像できないですね。ヨーロッパの伝統的なサッカークラブよりも長い歴史がある、本当に私たちが足元にも及ばない、素晴らしい歴史だと思います。
中村)これまで品川リフラに関わった方々が紡いできた結果です。世代がいくつも変わっていく中で、私たちの持っている文化や特徴を引き継ぎ、まわりに信頼されてきたからこそ事業が続いていきます。サッカーでも多くのクラブがありますが、クラブの“カラー”を守り引き継ぐという点で、大倉さんはどのような意識をお持ちですか?
大倉)Jリーグが60クラブある中で、まだまだ“カラー”と呼べるものを確立できていない、監督が変わるとすべて変わってしまう、というクラブも多くあると思っています。私たちいわきFCも、10年経ってようやくそうしたフィロソフィーの土台ができてきて、少しずつ「いわきFCってこういうクラブだよね」とまわりからも認識していただけるようになってきました。
品川リフラさんのような150年という数字は先が長いですが、誰がきても変わらない信念を持ち、でも時代に合わせて変わっていくこともできるような、そんな土台を作っていきたいという気持ちで取り組んでいます。
ーー150年と10年、積み上げてきた歴史の長さの違いはあれど、両者は今後この地域の未来を一緒に作っていく存在です。どんな未来を作っていきたいですか?
中村)130年前にいわき市で事業を始め、地域から受けている恩恵は本当にたくさんあります。そのお返しをしながら、地域を盛り上げ、活性化していきたいです。この地域に住んでいる人たちの“幸福度”が上がるような取り組みに協力できたらいいなと思います。
私たち品川リフラが発展するというだけでなく、地域全体が輝かしい未来に向かって進んでいく、そのためにいわきFCさんとの協力はなくてはならないものだと考えています。
大倉)もともとこのいわきFCというクラブは、東日本大震災からの復興のためにスポーツでの人づくり、まちづくりを目指して立ち上げました。そのためには、地域に向き合うことが何よりも大切で、サッカーはそれを達成するための手段でしかなく、勝つ“だけ”ではブランドを作ることはできません。品川リフラさんのように、自分たちが稼いだものをいかに地域に還元していくかを考え、地域がよくなっていくために努力していくことは今後も変わりません。
とにかく地域に向き合い、地域課題に向き合いながら、同じ方向を向いている企業さんとともにこの地域にとって良いものを生み出していければと思います。
ーーありがとうございました!
