株式会社SCOグループは、サッカーJリーグの4クラブとのパートナーシップ締結を発表しました。すでに長年のパートナーであり資本参画もしているモンテディオ山形だけでなく、鹿島アントラーズ、セレッソ大阪、アビスパ福岡も加えて行う『オーラルケアプロジェクト』。
オーラルケアという、まだまだ多くの方には浸透しきれていない領域に対し、「地域に根ざしたクラブ経営を行ってきたからこその影響力がある」と今回のプロジェクトを進める株式会社SCOグループ玉井雄介社長(以下、玉井)は話します。
サッカークラブの影響力が医療の変革をリードするーー。そんな未来を目指すプロジェクトについて、玉井さんにお話を伺いました。
厚生労働省が発表した「令和4年 歯科疾患実態調査」によると、特に若年層におけるう蝕(むし歯)がある割合は低い傾向にある一方で、全年齢のほぼ2人に1人が歯周病がみられることが明らかになっています。歯周病は糖尿病などといった全身疾患との相関もみられ、早期の発見・治療が不可欠です。しかし、同調査では過去1年以内の歯科検診の受診率は58%と、およそ3人に1人は歯科検診を受けていないということがわかっています。むし歯や歯周病を予防するという観点からすると、歯の定期的な検診(=メインテナンス)は3か月~6か月ごとに受けることが望ましいとされています。
そもそも、なぜ、“オーラルケア”が必要なのか?
ーー先日Jリーグ4クラブとの『オーラルケアプロジェクト』を発表されました。このプロジェクトの概要について教えてください。
玉井)今回のプロジェクトでは、モンテディオ山形、鹿島アントラーズ、セレッソ大阪、アビスパ福岡という4つのJクラブとともに『オーラルケアクリニック』をつくります。地域の方々に対して、定期的に歯医者に通っていただくようなアプローチができればと思っています。
「どれだけ地域に根付き、密着するか」という考え方を持っているJリーグのクラブだからこその影響力が出せるのではないでしょうか。
ーー“オーラルケア”の重要性を改めて教えていただけますか?
玉井)オーラルケアの話をすると、皆さん口を揃えて「虫歯を予防していきましょう」と言います。もちろんそれも大事なことなのですが、オーラルケアはそれだけではなく、「口腔内のケアをすることで全身の疾患、健康を保とう」とする考え方で、“口の中の常在菌のバランスを保つ”ためのケアのことを指します。
口の中にはたくさんの菌がいます。虫歯菌や歯周病菌などの“悪い菌”がいても健康なバランスであれば口腔内の平和は保たれるのですが、崩れてしまうと本来いてはいけない菌や、表立って目立たない悪い菌が繁殖してしまい、歯周病などの歯の病気につながっていきます。さらに口腔内にとどまらず、血管から侵入して全身の臓器に行き渡り、さまざまな疾患を引き起こすとも言われています。糖尿病、動脈硬化、アルツハイマー、誤嚥性肺炎、脳血管疾患など、「口の中からそんなに影響があるの?」と思ってしまうような病気にもつながることがわかっています。
ーーオーラルケアの効果は口の中に留まらないのですね。このような話を聞くと、もっと意識しなければという気持ちになります。
玉井)そもそも人間は口の中からいろいろなものを取り入れるわけで、そこが不潔な状態であれば、体に悪影響を及ぼすことはイメージできますよね。それが、実際にどうなるのかを皆さんに知ってもらわなければならないと思っています。
これは一朝一夕で伝えられるものではなく、最初は虫歯予防から入っても構いません。そこから本質的な口腔内ケアが全身の健康を保つために必要であるというところを、今回のプロジェクトでも伝えていけたらと思っています。口腔内の細菌コントロール、コンディションコントロールというのが歯科医院に通う必要性であるということが私たちが伝えたいことです。
歯科衛生士が主役になるクリニック
ーーオーラルケアクリニックでは具体的にどのようなことをしてもらうのでしょうか?
玉井)虫歯など、歯や口腔内の問題を抱えている・いないに関わらず、歯科医院に定期検診に行ってメインテナンスすることを推奨しています。歯周ポケットまわりの細菌の中にはセルフケアでは対処できないものもありますので、専門の歯科衛生士やドクターにケアしてもらい、一緒に口腔内のことを考えていけるような環境をつくることが理想です。
ーー今回のオーラルケアクリニックは、「歯科衛生士が主役になるクリニック」と伺いました。そうしたアドバイスを定期的に受けることに大きな意味があるのですね。
玉井)そもそも、「自分の歯は何本ありますか?」ということを知っている人自体少なく、いわゆる“デンタルIQ”は低い状態だと言えます。
歯医者に通い、医師や歯科衛生士と定期的にコミュニケーションを取ることで、自然と教育・啓発がクリニック内で行われ、いつの間にかデンタルIQが上がっていく。地域の人たちが、「健康を保つには口の中をキレイにしなきゃいけないよね」と思えるようになってくれるといいですよね。
「かっこいい生き方」を実現するために
ーー予防・未病という部分へのアプローチにも近いプロジェクトだと思います。
玉井)予防・未病という観点で、私は「どんな生き方をしたいのか」を考えていくことが大切だと思っています。自分の理想の生き方を分解していくと、“健康である必要性”が出てきますよね。
今回のプロジェクトでは、クラブのもつ“かっこいい”・“憧れる”という引力、地域との密着度を活かしていきます。地域の人たちが「人生をどう生きたいのか?」を考え、自分にできる範囲の健康への意識を持つ。“生き方”に働きかけていくことで健康へのアクションに繋げていければと思います。
ーー改めてJクラブへの期待を教えてください。
玉井)まずは、クラブから『オーラルケア』の考え方がファン・サポーターに広まり、それが少しずつ文化になっていってほしいと思っています。あれだけの人を魅了させる求心力は、サッカー選手をはじめとした“プロの”スポーツ選手・クラブが持っている素晴らしいもので、私たちはモンテディオ山形のパートナーとして、その地域に及ぼす力の広がりを感じてきました。
さらに、クラブ側も地域住民の便利さを積極的に創出していく使命を担っています。その結果、実際に住んでいる地域が豊かになれば、それが地域のアイデンティティにもなり、かっこいいと思えるようになります。こんな先進的な街に住むことができて嬉しいという状態をつくることにもつながるのではないかと期待しています。
「町がかっこいい、そこに住んでいる自分もかっこいい」という状態を一緒につくっていきたいですね。
ーー事業へのインパクト、収益化などの面ではどう考えていますか?
玉井)大前提として、SCOグループはテクノロジーを通じて、多くの人々がが医療や健康を享受できる世界を作っていこうと考えています。医療機関を私たちの持つプロダクトの力でよりよいものにしていくと同時に、そこに来る患者のマインドセットも変えることが必要です。
今回のプロジェクトでも、その意識変容、行動変容の部分が意味合いとしては大きいです。事業的な意味合いで言うと、発信力のある各クラブとの取組によって、私たちのプロダクトへの信頼度が上がったり、共感してくれる医療機関が増えたりすることがよい影響になるのではないかと思っています。
これからの『オーラルケアプロジェクト』
ーー今回の4クラブを選んだ理由はありますか?
玉井)クラブが、このプロジェクトの考え方である「地域が健康になるために」という点に共感してくれていることが大きいです。この事業単体で利益を出すことを目的にするのではなく、地域が健康になる、つまり地域の利益を出すことでクラブの利益につながることを共通認識として持ちながら進めていくことが大切だと思っています。そこがおろそかになると本末転倒ですし、逆にそこに共感して進められるクラブであれば今後も積極的に増やしていきたいと思っています。
私自身はモンテディオ山形との4年間を通じて、クラブの持つ影響力や可能性をものすごく感じました。自分自身が体験したからこそ、各クラブだからこそできると感じています。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
玉井)昔から、医者よりも患者の方が情報弱者の立場でした。それが現在はテクノロジーの力で少しずつそのギャップが埋められてきましたし、埋められていくべきだと思っています。患者が自分自身で、求める生き方に応じて医療の受け方をパーソナライズし、その受けるスキルも上げていかないといけません。
「医療を大きく変えた!」と言われる企業になれるように、テクノロジーの力を使いながらその変革に邁進していきたいと思います。
ーーこのプロジェクトがそうした医療変革の新たな足がかりになるといいですね。ありがとうございます。
写真提供:株式会社SCOグループ