カマタマーレ讃岐は、香川県全8市9町をホームタウンとし、地域に根差した活動を続けています。その中でも『じんけん啓発DAY』は、行政と連携し、サッカーを通じて人権意識の向上を目指す重要な取り組みです。
2024年9月8日に行われたカマタマーレ讃岐の試合会場では、選手・スタッフ・サポーターが一体となり、人権啓発の横断幕掲出や選手によるメッセージ発信などを行い、より多くの人に人権について考える機会が提供されました。
また、カマタマーレ讃岐は学校訪問や地域イベントへの参加など、スポーツの力を活かして地域とともに歩むことも大切にしています。今回は、ホームタウン担当の図子文昭さん(以下、図子)に、『じんけん啓発DAY』を中心とした人権啓発の取り組みや、クラブのホームタウン活動への想いを伺いました。

クラブの発信力を人権啓発に活かす
ーーまずはじんけん啓発DAYの概要を教えてください。
図子)香川県内には17の市町があり、それぞれの地域で『かがわスポーツ×ファンキッズDAY』や『高松市ホームタウンDAY』といった活動が実施されています。これらは行政の一環として開催されるもので、その中の1つに『ホームタウンDAY』という取り組みがあります。
また、その取り組みのひとつとして『じんけん啓発DAY』があり、試合会場で選手と観客が一体となり人権啓発活動を行います。試合会場において、選手とお客様が一体になって人権啓発活動を実施することにより、県民、とりわけ若い人たちの人権尊重意識の向上を図ることを目的としています。

ーー具体的な実施内容を教えてください。
図子)『じんけん啓発DAY』では、スタジアム内で人権啓発の横断幕を掲げ、ピッチのまわりを1周しながらのお客様への呼びかけや、オーロラビジョンを活用した選手による人権メッセージを含む啓発動画を放映、さらに、香川県や法務局から派遣された3体の人権啓発の着ぐるみが来場者に働きかけるなど、さまざまな方法で人権への関心を高めようと取り組んでいます。
会場には人権啓発ブースも設置され、ワークショップとして人権キーホルダーを作る体験の場を提供したり、来場者に人権に関する資料を配布したりします。資料を受け取った方の中から当選者にはプレゼントを渡し、より多くの人に人権について知ってもらう機会をつくります。


選手にとっても人権について考える機会に
ーー“人権啓発”については、普段考えるきっかけが少ないと感じてしまいますが、スポーツの試合やチームを通じて発信することにはどのような意味や意義があるとお考えですか?
図子)サッカーはチームワークが非常に重要なスポーツです。そのプロスポーツチームである私たちが、「仲間を大切にすること」や、「まわりの人に優しく接すること」の大切さを伝えることが、来場者に対して最も発信できるメッセージだと考えています。
ーー毎年継続して実施する中で、選手やクラブスタッフ、さらには参加者や来場者の皆さんの間で、繰り返し参加することで生まれた変化や感じることはありますか?
図子)サポーターはもちろん、選手も含めて、毎年必ず行われるイベントであるため、人権について意識する機会が自然と生まれていると感じます。普段、人権に関わる機会がなければ、それほど意識に残るものではないかもしれません。しかし、この活動が毎年継続されることで、来場者はもちろん、選手やクラブのスタッフにとっても、人権について考えるきっかけとなり、意識の片隅に残るようになっていると思います。

ーー毎年の開催を通じて、来場者も人権を定期的に意識することができていると思います。取り組みの中で図子さんがとくに印象的だった企画や、思い入れのある企画はありますか?
図子)サッカーが好きで来場されるお客様にとって、やはり選手が発するメッセージの影響は大きいと感じています。オーロラビジョンでのメッセージ動画の放映だけでなく、クリアファイルなどのグッズに選手のメッセージを入れ、それを配布する取り組みも行っています。
チーム全体として発信するよりも、個々の選手が発信する方が、ファンの心により響くのではないかと思います。ただ、選手も日常的に人権について考えているわけではないため、依頼を受けた際には、言葉やメッセージを慎重に考える姿が見られます。そのプロセス自体も、選手にとって意義のある経験になっているのではないかと感じています。

ーー選手にとっても、人権について改めて考えるきっかけになっているのですね。こうした人権に対するメッセージに対して、ファン・サポーターの反応はいかがでしょうか?
図子)横断幕を持ち、法務局の方や人権擁護委員の方がピッチのまわりを1周する際、スタンドのお客様から温かい言葉をかけてもらうことがありました。「ありがとう」や「人権について考えるきっかけになった」といった声が聞こえてきたこともあります。 試合中にピッチ側からスタジアムの観客席を見る機会は、関係者にとってもなかなかないため、そうした環境で直接反応を感じられるのは貴重な経験ですよね。
ーーたしかに、普段の活動の中でも感謝されることはあると思いますが、スタジアムで直接観客から声をかけられる機会は特別ですよね。今年の「じんけん啓発DAY」についても教えてください。
図子)ちょうど先日、10月19日のギラヴァンツ北九州戦で『じんけん啓発DAY』を実施することが県の同和政策課と決定しました。これから高松市法務局や香川県同和政策課と集まり、今年の具体的な内容について話し合っていくことになります。基本的には昨年の取り組みをベースにしながら、そこに新しい要素を加えていこうと考えています。
例えば、毎年異なるグッズを来場者全員に配布しており、それを通じて人権や同和教育について意識してもらう工夫をしています。どのようなグッズなら来場者が手に取って考えるきっかけになるか、そこから議論を始めることが多いです。
また、アンプティサッカーの取り組みも毎年行っています。アンプティサッカーとは、杖を使ってプレーする障がい者サッカーのことで、毎年ピッチや『カマタマ広場』というイベントスペースで実施しています。

ーー10月のイベントに対し、かなり早い時期から打ち合わせや準備を始めるのですね。
図子)この『じんけん啓発DAY』は、我々にとっても非常に重要な試合の1つです。クラブに対して大きな支援や協力をいただいて開催しているため、単なる形式的なイベントではなく、しっかりと意味のある取り組みとして継続させる責任があると感じています。
ーー香川県の同和政策課がカマタマーレ讃岐に期待していることはなんだとお考えですか?
図子)香川県においてカマタマーレの試合は集客規模が大きいイベントですので、大きなアピールの機会として捉えていただいています。試合を通じて多くの来場者にメッセージを届けることができるため、人権啓発活動においても非常に重要な場となっています。

新たに設置した香川県8市9町のスタジアムののぼり
ーー図子様ご自身についてもお伺いします。現在の部署や担当業務を教えてください。
図子)株式会社カマタマーレ讃岐にて、マーケティンググループのホームタウン担当を務めています。主にホームタウン活動と行政との連携を担当し、一部総務関連業務にも関わっています。
ーー今シーズン力を入れていきたいホームタウン活動や、新しく行いたい取り組みはありますか?
図子)カマタマーレ讃岐は香川県全8市9町すべてをホームタウンとしています。「すべての市町の人々を元気にしたい」と思っていますし、「すべての地域からも応援される存在でありたい」とも考えています。
これまで、各市町との関係性を築きながら、冠試合や学校訪問、地域イベントへの参加などを行ってきました。しかし、スタジアムに来ても、それらの取り組みが伝わるものがほとんどない状況でした。例えば、「〇〇市が応援しています」というようなのぼりがなかったんです。そこで、現在の県の担当者と話し合い、8市9町の“のぼり”をスタジアムに設置することにしました。2025年の開幕から2試合が経過しましたが、とても好評です。

図子)スタジアムに各市町ののぼりが掲げられたことで、“各市町がカマタマーレ讃岐を応援している”ということが視覚的に伝わるようになりました。とくに香川県民の皆様にとって、自分の住む市町がクラブを応援していると実感してもらえるようになったと思います。
その結果、「もっとカマタマーレを応援しよう」「まわりの人を誘って一緒に来よう」という気持ちが生まれるスタジアム作りをしていこうと、現在も行政と試行錯誤を重ねながら取り組みを進めています。
ーー自分たちが住んでいる香川や市町をカマタマーレ讃岐が応援していることが視覚的にわかると、目に留まりますし、そののぼりの写真を撮りたくなってしまうかもしれませんね!
図子)もちろん、私たちの役目としては、県民・市民・町民への還元も重要ですが、同時に、アウェイから来るお客様に対して香川県や各市町をアピールすることも大切だと考えています。名前を知ってもらうことが第一歩であり、「この町はどんなところなんだろう?」と興味を持って調べてもらえたら、それだけで大きな意味があります。
さらに、観光にも関心を持ってもらえれば、香川県と他の都道府県の人々との交流が生まれ、それ自体が私たちの果たすべき役割のひとつになると感じています。
ーーひとつの取り組みが、多角的な意義を生んでいるんですね。
図子)香川県における我々の存在意義とは何かと考えたときに、やはり県民への還元がひとつの大きな要素だと思います。スポーツで盛り上がり、我々のチームが少しでも強くなり、サッカーの人気が高まり、県民の皆さんが元気になる。そうした貢献が大切だと考えています。
また、「香川県とはどんな場所なのか?」を知ってもらうことも、私たちの重要な役割のひとつだと思います。県民への還元と、地域の魅力をPRしていくこと。この2つが大きなカマタマーレの存在意義なのではないかと考えています。

クラブの成長にも繋がるホームタウン活動
ーー最後に、ホームタウン活動に関する今シーズンの抱負をお願いします。
図子)本日お話ししたのは『じんけん啓発DAY』やスタジアムのことが多かったのですが、それ以外でも“子どもたちに夢を与えること”も、カマタマーレの大きな仕事の1つだと思っています。
これまでも学校訪問を行い、子どもたちとの交流を続けてきました。今後は、こちらからも積極的に発信し、より多くの地域にカマタマーレのファンを増やしていきたいですし、それだけではなく、スポーツを通じて子どもたちがいろいろなことを学び、明るく成長していってほしいという想いもあります。だからこそ、学校訪問をはじめ、もっと積極的に地域に足を運びたいと考えていて、現在、県や市と調整しながら取り組みを進めています。
ホームタウン活動は、県や市町のためであり、同時にクラブの成長にもつながる 重要な取り組みです。そのため、今年からは兼任していた業務を整理し、ホームタウン活動により集中できる体制を整えました。
クラブとしても、今まで以上に真剣にこの活動に取り組んでいきたいと考えており、その方針を社内でも話し合いながら進めています。
ーーありがとうございました!




