セカンドキャリア

「腸への意識を変え、行動変容を起こす」元サッカー日本代表による仕掛けとは?|第二の挑戦 スポーツ選手のセカンドキャリアに迫る vol.4~鈴木啓太~

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サッカー元日本代表、鈴木啓太さん(以下、鈴木)。スポーツ選手のセカンドキャリアと言えば、この人を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。名門・浦和レッズ一筋16年のキャリアから転身し、“腸内細菌を研究する”事業を行うAuB株式会社を立ち上げたときには、驚きと珍しさをもって世間に伝えられました。

アスリートとしての十分な知名度もありながら、自身の「やりたいこと」に突き進んだ約10年間。さまざまな苦労もありながら、次なる挑戦を続け、社会の“行動変容”を目指す鈴木啓太さんにお話を伺います。

京谷和幸
Jリーガーから車いすバスケ銀メダル 京谷和幸を変えた出会いと、これからの子どもたちへの“きっかけづくり”|第二の挑戦 スポーツ選手のセカンドキャリアに迫る vol.3輝やかしい世界で活躍するプロスポーツ選手。想像を絶する努力と数々の挫折を乗り越えて辿り着いたアスリートも、いつの日か最前線の舞台から退き、次の挑戦をするタイミングが訪れます。 Sports for Socialではそんなプロスポーツ選手たちがどのような”第二の挑戦”をしているのか、スポーツ選手として得た経験や力をどのように活かしているのか、その方々の人生に迫ります。今回は、京谷和幸さん(以下、京谷)にスポットライトを当てます。北海道出身で、当時日本サッカー最高峰リーグである日本リーグの古河電工に所属。その後1993年にJリーグが誕生し、晴れてJリーガーとなった京谷さんですが、事故により車いすでの生活を余儀なくされます。車いすバスケと出会い、日本代表選手として4度のオリンピック出場、そしてヘッドコーチとして東京パラリンピック銀メダルという輝かしい“2つ目の”キャリアを歩みました。そんな京谷さんは、株式会社INSPLICTを立ち上げ、さらなる新たな挑戦へと踏み出しています。その壮絶な人生と、未来への期待に迫ります。...

「このサポーターの前で引退したい」引退を決めた背景

ーー2015シーズンに浦和レッズでサッカー選手としてのキャリアを終えた鈴木さん。引退を決めた理由を教えてください。

鈴木)2014年の冬に見つかった不整脈の影響もあり、「浦和レッズというチームでプレーすべきレベルではない」と自身で感じ、まずは2015シーズン後にチームを離れる決断をしました。自身のSNSでそれを伝えたとき、情熱的なことで有名な浦和レッズのサポーターからどんな反応があるのかは正直不安もありました。ほかのチームでプレーする選択肢もあった中で、「どこに行っても応援するよ」という温かい言葉を本当にたくさんいただいたことで、逆に「このサポーターの前で引退したい、引退すべきだ」と思うようになり、引退を決めました。

ーー浦和のサポーターの愛が、引退の決断の大きな理由になったのですね。2015シーズンの途中にAuB株式会社を立ち上げ、次の挑戦のテーマに“腸”を選びました。小さい頃や現役時代から腸への意識は強くあったと伺いましたが、なぜそれを“仕事”に選んだのでしょうか?

鈴木)腸に関するビジネスを始めた理由は、サッカー選手になるときと同じで「やりたい!」という想いだけです。

その先どんな苦労があるのか、起業や経営、研究に関することなどわからないことも多かったのですが、それはサッカー選手になろうとするときも同じですよね。「こうやったらサッカー選手になれるよ」と言われても、その過程には苦労もたくさんあるわけで、わかっていたら簡単に踏み出せる道ではないですよね(笑)。あまり知りすぎてもいいことはないと思いますし、「純粋にやりたいこと」をするべきだと思ってビジネスをスタートしました。

ーー現役時代から、引退後のことを考えることも多かったのでしょうか?

鈴木)高校を卒業してプロに入ったときから「絶対にサッカー選手として成功してやる」という気概も持ちつつ、「自分は何歳までサッカー選手としてできるかな?」という現実的な考えも同時に持っていました。30歳までできたらいい方だと言われているサッカー人生を考えると、明らかにその先の人生の方が長いですからね。

プロサッカー選手になった以上、終わりは必ず来るものなので、その先のことも若いころから考えながら過ごしてはいましたね。

鈴木啓太さんAuB株式会社 代表取締役 鈴木啓太さん

母の教えから『腸内細菌』の世界へ

ーー腸内細菌に注目するようになったきっかけはどのようなものですか?

鈴木)7歳くらいのときに、母から「人間は腸が一番大事だ」と言われたことが最初のきっかけです。母は家族の健康にとても気を遣ってくれる人で、サッカーを頑張っていた私を食事の面でもかなりサポートしてくれていました。母からの勧めで高校生のときには腸内細菌のサプリメントも飲み始めていました。

現役時代、アテネオリンピック最終予選のUAEラウンドで23人中18人が体調不良になったことがありましたが、そのときも私は大丈夫だったという体験にも繋がり、腸のことに気を遣っていたからこそよかった実体験もあります。

鈴木啓太鈴木啓太さんの幼少期、母との一コマ

ーー腸への意識が、アスリートとしてのパフォーマンスにも活かされていたのですね。

鈴木)アスリートは、パフォーマンスを発揮するためにコンディショニングという土台がある必要があります。最初は母親からの教えでしたが、自分自身でもトレーナーの方や栄養士の方など、まわりの詳しい人たちから話を聞いて、お腹にお灸をして温めたり、腸のためにいろいろなことを現役時代にやっていました。
こうしたコンディショニングは、一般の方にも還元できるのではないかという想いがAuBの根幹にはあります。

ーーAuBのビジネスは、多くのトップアスリートのデータを持ち、研究を進めていることが大きな特徴です。アスリートたちはこうした検体を提供することに抵抗はなかったのでしょうか?

鈴木)アスリートにとって、自分のデータを取られることは少し慎重になるものです。ですが、彼らに「私たちはこうしたアスリートのデータをファンやサポーター、地域の方々に還元していくための研究をしており、世の中をよくしていきたい」という私たちの想いを伝えるようにすると、「自分が力になれるなら」とアスリートたちは前向きに協力してくれました。自分のために頑張りながら、「誰かの役に立てれば」と思っているアスリートは多くいて、その彼らの想いによって多くの検体を集めることができています。

アポロプロジェクト
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腸はすべての源~腸内細菌の検査を当たり前に受ける社会へ~

ーーサプリメント『aub BASE』の商品化など、アスリートの研究を通した一般の方々への還元も進んできていると感じます。

鈴木)『腸活』という言葉がよく聞かれるようになりましたが、まだ腸のことを意識している人は、ダイエットや美容分野に感度の高い人、あるいは便秘など腸に課題を抱えている人に限られており、一般の方々への還元はまだまだだと感じます。
私たちが『アスリート×腸内環境』と言い始めたときと比べると言葉は浸透してきていると感じますが、理想としているのは「健康診断と同じくらい腸内細菌の検査を受けることが当たり前」の社会です。そうした意味では、もっと伝えていかなければならないと思っています。

ーー腸内環境を整えることは、私たちにどのような効果をもたらすのでしょうか?

鈴木)わかりやすいところでいうと、“免疫”に関することですかね。免疫は、低くなると風邪をひきやすくなったり、逆に高すぎるとアレルギー反応が出てしまうものであり、バランスを整えることがとても大事です。

免疫も腸がその大部分をコントロールしていて、腸内環境を整えることで免疫のバランスも整うので、例えば花粉症の症状の改善に対して、根本的にアプローチすることも可能なんですよ。

aub

ーー腸はさまざまな体の部位の課題に繋がっているのですね。

鈴木)古代ギリシャの医師であり、医学の父と呼ばれるヒポクラテスは、「すべての病は腸から始まる」という言葉を残しています。第六感のことを英語で「ガット(腸の)フィーリング」と表現したり、人間は脳より先に消化器官からでき始めることなどからも、“腸”の大事さがイメージしていただけるのではないかと思います。本当におもしろい領域で、近年は科学的にも解明されてきているのですが、目に見えない部位の話なので伝えるのが難しいですよね。

ーー現代人の腸はどんな課題を抱えているのでしょうか?

鈴木)腸内細菌は、“多様性が高い方がよい”と言われています。菌を育てるためには食物繊維をとるといいのですが、菌によってそれぞれ好きな食物繊維が異なります。バナナの食物繊維が好きな菌もいれば、野菜の食物繊維が好きな菌もいます。栄養面で一般的に言われていることと同じく、さまざまな食べ物をバランスよく取ることが、腸内細菌にとってもいい環境に繋がります。

ーー人間のこれまでの“知恵”が、腸内環境にとってもよいと証明されつつあるのですね。

鈴木)まさにそうですね。人間がこれまで生き抜いてきた知恵、おばあちゃんがこういうのが体にいいと言っていたものは、腸にとっていいものが多いです。ただ、データやエビデンスが存在するものではないので、「より便利にしたい」となったときにそうした教えが淘汰されてしまっていることもありますよね。

ーーそうした背景を考えると、『aub BASE』のようなサプリメントで腸内細菌の多様性を作り出すことも効果的に思えます。

鈴木)腸内の理想的な環境について、研究を重ねてわかってきていることは多いです。「食事を通してその理想に近づいてほしい」という想いはありますが、それを「手軽に便利に理想に近づけるようにする」ことが『aub BASE』などの商品を販売し、広めていこうとしている理由です。

aubBASE菌を摂ってコンディションの土台をつくる サプリメント『aub BASE』、菌を育ててコンディションの土台をつくる 食物繊維ミックス『aub GROW』

行動変容に対して諦めずに取り組んでいく

ーー会社経営において、アスリート時代の経験が役に立ったなと思えることはありますか?

鈴木)「諦めないこと」ですね。やってみる、挑戦するというマインドは今も大事にしています。

自分の至らなさから、起業してからもたくさん失敗してきています。でも、サッカーも最初から上手くできていたわけではありません。プロになってからも上手い人はたくさんいる中で、やり続けること、失敗したら次どうしようと考えて取り組むことの繰り返しは会社の経営でも変わらないのかなと思います。

ーー今後の展望を教えてください。

鈴木)『腸活』や『腸内細菌』という話題をもっと一般の方々にライトに伝えていかなければならないと感じています。大事なのは、“行動変容”を起こすことです。1人1人の意識を変え、腸内環境が身近で可視化され、セルフチェックできるような世の中の基盤づくりに貢献していきたいです。

ーーサラヤさんが取り組む『100万人の手洗いプロジェクト』とも行動変容という点では共通点がありますね。100万人の手洗いプロジェクトはアフリカなど、海外向けのものですが、AuBは世界にも目を向けているのでしょうか?

鈴木)私たちの強みは多くの日本のアスリートのデータを持っていることです。課題先進国である日本での取り組みは、アジアをはじめとした諸外国にも広めていける可能性を秘めています。こうした自分たちの持っているアセットを展開することも考えていきたいです。

ーー今後の活躍にも期待しています。ありがとうございました。

AuB5つの生薬を配合した入浴剤『SLEEP BATH』
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AuBは、サッカー元日本代表の鈴木啓太が2015年に創業した、総合腸活ブランド。オリンピックの金メダリストをはじめとするトップアスリート1200人超の“便”から、ヒトにとって健康的な腸内環境を研究しています。その科学的根拠を武器に、独自の“腸活”メソッド「aub gut care method(菌を摂る・育てる・守る)」を確立し、サプリメントやプロテインなどの商品を開発・販売しており、2025年1月には、“菌を守る”をコンセプトにした口腔ケア商品「ORAL GEL(オーラルジェル)」を新発売しました。

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口腔ケアにとって大事な“朝イチの歯磨き”をPRするために、新商品発表の記者会見では鈴木社長自らパジャマ姿で登壇しました。

(aub store:https://aubstore.com/collections/product-aub)

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