臨床美術士で絵描きのフルイミエコです。臨床美術とはアートの活動を、認知症の症状の改善に役立てる目的で開発されたアートセラピーです。しかし誰でも楽しめるアートプログラムは他の分野でも活躍しています。今日は遠方から私のオンライン講座に参加されている周太さんをご紹介します。
周太さんは31歳のダウン症のある男性です。母親のMさんが、周太さんはダンスを習うことで「動」としての自己表現は出来ているけれど、「静」としての自己表現はないかと探す中で臨床美術に出会い、地元で対面の講座を受け始めました。周太さんは描くことに特に興味はなかったのですが、今では楽しさにハマって、講座だけでなく毎週日曜の午後には殆ど絵を描いて過ごしているそうです。
私はもともと周太さんが描いている様子を動画で見る機会があり、周太さんを知っていました。私が驚いたのは集中力の高さです。一人で制作しているところを家族が撮影されたのですが、周太さんは筆に次々と絵の具をつけて画面へ運び絵を描いてきます。時々ふと手が止まり、視線が画面とパレットを往復したり、筆に絵の具をつけたまま紙の上を探るように動きます。周太さんが自分の絵がどんな感じになっているのかを、途中でよく見ていることが分かりました。画面と無言の対話をして自分がそうしたいと感じる色や形を見つけていく様子は、まさに芸術家だと感心しました。しかしコロナ禍の中で楽しみにしていた対面の講座が一時的に受けられなくなり、昨年9月にオンラインでのリモート講座を希望する連絡がありました。
「紙やすりに描く色面デザイン」
もともと臨床美術は対面での講座なので、オンラインでのリモート講座は研究途上です。しかし、画面を通じてでも講師の手元はしっかり映せるので内容は伝えることができ、参加者の作品も時々見せてもらいながらすすめることで、創作の時間を共に楽しめると私は手応えを感じていました。そんな時に連絡を受けたので、お役に立てるならと引き受けました。
画材はあらかじめ用意して京都から全て送ります。初回の最初だけは少し緊張もありましたが、制作がすすむと黙々と描きすすめていきました。講座には母親のMさんと二人での参加です。対面のときは近くに家族がいると気になってしまう周太さんも、リモートだと不思議と気にならないようです。二人でパソコン画面を見ながら並んで制作されます。Mさんも周太さんの様子を感じながら自分の絵を描きます。家族は心配して手伝いそうになってしまいがちですが、母親のMさんは周太さんの表現をとても尊重していてちょうど良い距離感です。途中で見せてもらう時には周太さんに声をかけてさりげなくサポートしてくれて、その様子がとても自然で素敵です。
「雪化粧する樹木」
雪の日の景色をモノクロで描きました。それぞれ全く違う雰囲気の景色です。周太さんは繊細な枝振りにたっぷりの雪。Mさんは夜中積もった雪が、もしかしたらそろそろ降り止むのかもしれません。一緒に見せてもらいながら、とても嬉しそうなお二人に私もニコニコしてしまいます。終わってからMさんが、次のようなコメントをくれました。「仕事を忘れて集中し楽しい時間でした。周太は終わってからも、ここにカラスがみえる、とか、鶴がみえる、とか、お喋りが止まらず、残った墨でお絵描きしていました。」そこにはカラフルな色彩に塗り分けられた形の中に、雪が降っているような絵が添えられていました。
講座は4回目を終えて、リモートにもすっかり慣れてきました。母親のMさんと私は、たまに制作途中で作品の感想を話します。「周太は色がとても軽い。どうしてそんな風にできるのかな」とMさん。「周太さんは色に迷いが無いですね。なかなかこんな風には描けないですよ。羨ましいくらいです」と私。周太さんに作品を画面に向けて見せてもらうと、少し控えめな笑顔を見せてくれるのが嬉しいです。
「アナログフロッタージュ」
実は周太さんが絵を描くようになった後に、家族にはとても悲しい出来事が起きました。その時にも周太さんは絵を描くことをずっと続けていたそうです。Mさんは周太さんの様子を次のように語ってくれました。「臨床美術を初めて3か月が過ぎた時に、周太が誰よりも愛していた兄が急死しました。やり場のない悲しみで何も手につかない状態の中、集中して自分の心の内を絵に表現できることは本当によかったと思います。また誰に褒められなくても描くことそのものに満足感を味わえているのを感じます。そういう時間を持てることは宝だと思います。」
私は講座を通じてしみじみと、絵を描くことの何が周太さんに良いのだろうと考えます。ご本人に代わって語ることはできませんが、自分の経験と重ね合わせて考えると、やはり絵は描き手の感覚にダイレクトに働きかけて、視界や触感を楽しませ、夢中にさせてくれる。それこそが日々の気持ちの切り替えや、気力の充実に繋がるのではないかと感じます。そして絵は自然にその人を表してくれるものになるのだなあと思うのです。周太さんは話すことは多くはないのですが、絵はとても雄弁です。喜びも悲しみも色や線や点となって、惜しみなく放たれています。
講座のない時でもひとりで描き続ける周太さん。きっと絵は周太さんの世界の一部になり、すっかり人生の味方になったのでしょう。そしてそれは決してプロの画家だけではなく、全ての人がチャレンジして人生に取り入れることのできる喜びだと思います。
■著者
フルイミエコ
画家、アート&ヘルスケア臨床美術アトリエ苗 主宰
京都<臨床美術>をすすめるネットワーク代表
日本臨床美術協会認定臨床美術士1級
※「臨床美術)及び「臨床美術士」は(株」芸術造形研究所の日本における登録商標です。
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