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「世の中の“不”を“快”にする」製品を滋賀の地から|山仁薬品・関谷康子社長が語る老舗メーカーの挑戦と想い

yamani

湿気やニオイ、べたつき。そんな日常の“小さな不快”を、静かに解消してくれるのが乾燥剤です。

滋賀県には、その小さな存在に無限の可能性を見出し、70年以上にわたって作り続けてきた老舗メーカー『山仁薬品株式会社』があります。これまで企業向けが中心だった同社は、いま1人ひとりの暮らしやスポーツの現場へと挑戦のフィールドを広げています。

靴用乾燥剤『カラッとヒーロー』をはじめ、身近な声から生まれた商品を全国で共感を呼ぶ商品に育て、さらに地域やチームを巻き込んだ新しいものづくりへと進化させている山仁薬品。老舗が、なぜ今あえて変化を選んだのか。その背景と想いを、代表取締役社長・関谷康子さん(以下、関谷)に伺いました。

「守りの業界に変化を」老舗メーカーが挑む顧客起点の商品づくり

ーーもともとは企業向けの取引(BtoB)が中心だった山仁薬品さんが、最近は一般の人にも手に取ってもらえる商品づくり(BtoC)に力を入れているそうですね。

関谷)山仁薬品もそうですが、乾燥剤やシリカゲルを扱う会社は、いずれも60〜70年の歴史を持っています。この業界には新規参入もほとんどなく、どの会社もお互いをよく知っている環境で、どうしても業界全体が保守的な経営になりがちです。「もっとおもしろいことをしたい」「この業界に変化を起こしたい」と思っていました。

また、BtoCへの変革は、私自身が学生時代に喫茶店やガソリンスタンドなど、“お客様の反応がダイレクトに返ってくる”接客業のアルバイトをしていたことも影響しています。山仁薬品に入社後も、「みんなが困っていること」や「あったらいいなと思うもの」を形にし、お客さまの困りごとに寄り添った商品をつくれるのではないか?と考えていました。

ーーそのなかで誕生したのが、最初のBtoC商品である調味料専用乾燥剤『カタマラーーン』ですね。

関谷)弊社で独自製造している錠剤型のシリカゲル乾燥剤『ドライヤーンタブレット』をもとに開発した商品です。私自身もキッチンに立ちながら「調味料が固まってしまって最後まで使えない」という悩みを持っていました。15年ほど前に私が山仁薬品に入社した頃、試しにドライヤーンタブレットを自宅の調味料瓶に使用してみたところ、最後まで湿気で固まることなく使い切ることができたのです。

「これは私以外にも絶対に困っている人や望んでいる人がいるはずだ!」と思い、『カタマラーーン』として商品化することにしました。

山仁薬品

ーー実際に調味料専用乾燥剤『カタマラーーン』の販売をした際、まわりの反応はいかがでしたか。

関谷)お客様からの反応はとてもよかったのですが、BtoC向けの商品開発は初の試みだったため、社内の理解を得るまでには時間がかかりました。それでも、担当してくれたスタッフとともにSNSやクラウドファンディングを活用しながら試行錯誤を重ねた結果、商品のファンになってくれる方が社内外問わずにじわじわと増えてきています。

スタッフの声がヒット商品に、靴用乾燥剤『カラッとヒーロー』

ーー最近では、靴用乾燥剤『カラッとヒーロー』という商品を開発されたそうですね。

関谷)調味料専用乾燥剤『カタマラーーン』は私の悩みから生まれたものでしたが、靴用乾燥剤『カラッとヒーロー』は弊社のスタッフが持ち帰ってきたお客様の声を商品化したものです。趣味であるボルダリングのジムに通っていたスタッフが、ジムのオーナーから「ボルダリングシューズにも合う長細い乾燥剤がほしい」という意見をいただいたのが開発のきっかけでした。

靴用の乾燥剤は、世の中にたくさんの種類があり、正直競合との競争が厳しい領域だと思っていました。しかし、お客様から「ボルダリングシューズは既存の靴と比べて足の先が細く、つま先まで入る靴用乾燥剤がない」という実際の悩みも聞くことができ、スタッフからも「これは作ってみるべきでは?」と意見があがり、開発をスタートさせました。

山仁薬品

ーー『カラッとヒーロー』開発にはそんなストーリーがあったのですね。実際に商品販売したところ、大きな反響があったと伺いました。

関谷)クラウドファンディングの販売では、弊社の目標を大幅に上回る1,400人以上の方に購入していただき、売上約700万円という想像以上の結果になりました。販売した時期が夏前の梅雨で、タイミングとしても少し蒸し暑く蒸れやすい時期だったことも影響したのかもしれません。

話題となったことで興味をもってくださる企業さんも増え、さまざまなイベントや展示会にも出品させていただきました。今では、全国チェーンの小売店にも『カラッとヒーロー』が並んでいます。

ーースタッフの声から着想した商品が、全国展開するほどの人気商品に成長していったのですね。

関谷)購入してくださったお客様から「今までこんな商品はなかった」と感想をいただきます。

もともと靴屋にも100円ショップにも乾燥剤は置かれているものですが、従来の靴の乾燥剤の持ち手はそのほとんどが黒か白で目立っていませんでした。この『カラッとヒーロー』のピンクやブルー“色”が皆さんの目に止まり、「これまでになかった」という感想が生まれて話題になっているところは、BtoCならではのおもしろさだなと感じます。

山仁薬品

スポーツがつなぐ地域と企業、滋賀レイクスとの「共創」

ーースポーツ分野でも、身近な課題をきっかけに新しい商品が生まれていると感じます。
そんな中で、2025年からBリーグチーム・滋賀レイクスのブロンズパートナーに就任されました。その経緯を教えてください。

関谷)乾燥剤はスポーツ分野にも役立つということがわかってきたので、滋賀県のスポーツにも貢献できればと思っていました。そんなときに滋賀レイクスとパートナーとなり、山仁薬品として応援することを決めたのですが、私の息子がバスケットボールをしていて競技事情や選手の悩みをある程度理解していたことも背中を押す一つになりました。

パートナーとしての活動は今年7月からですが、滋賀レイクスのHPやSNSで山仁薬品のことを発信していただいています。どうしても“山仁薬品”という名前から、薬品を扱っている堅く近寄りがたい会社と思われやすいので、そのイメージを払拭するために『カラッとヒーロー』を前面に押し出した親しみやすいロゴにしました。

山仁薬品

ーーパートナー就任後、ファンや周囲からはどのような反応がありましたか。

関谷)発信を見て「カラッとヒーローって何だろう」と興味を持ち検索してくださったり、ホームページを見て、「おもしろそうな企業が協賛に入った」とXでつぶやいてくれた方もいます。今後は、滋賀レイクスとのコラボ商品も企画しているので、ブースターのみなさまにはぜひ楽しみにしていてほしいと思います。

バスケットボールだけでなく、他のスポーツや体を動かす仕事の方々にも使っていただけるような商品開発も進めています。来年には全国のスポーツショップで商品を取り扱ってもらえるように準備をしており、より多くの方に私たちの商品を届けていきたいと思っています。

滋賀から全国へ、“不”を“快”に変えるものづくり

ーー全国展開のお話しもありましたが、今後どのような想いを大切にしながら商品開発や販売を進めていきたいとお考えでしょうか。

関谷)乾燥剤を「用途に合わせて気軽に選べて、どこでも手に入る身近な存在」にしていきたいと考えています。また、滋賀県を拠点とする企業として、すべての業務を県内で完結させたいという想いがあります。滋賀県は大都市ではありませんが、それ故に地元の結びつきが強く、人とのつながりを大切にできる土地です。

だからこそ、滋賀県内でつくり上げた商品が全国へ広がれば、従業員にとっての誇りにもなり、関わってくださるすべての方の喜びにもつながると思っています。

ーー滋賀県守山市にある就労支援施設にも、一部の業務を依頼していると伺いました。

関谷)就労支援施設には、商品のパッケージ詰めをお願いしています。比較的どのような障がいのある方でも取り組みやすい作業のため、多くの方に関わっていただいています。

私たちがお願いしている作業は、製造の最終段階のパッケージ詰めで、「どんな商品の作業をしているのか」が作業をしてくれている方にもわかりやすく、皆さんから人気の作業にもなっていると聞いています。作業に携わってくださる方にも喜んでいただいており、企業としても社会貢献につながると考えていますので、今後もこの取り組みを継続し、滋賀県の発展に貢献していければと思います。

関谷社長

ーー最後に、「斬新なアイデアと意思ある実行力で、世の中の“不”を“快”にする」を理念に掲げる山仁薬品として、今後どのような活動に注力していきたいと考えられていますか。

関谷)乾燥剤を「お菓子に入っているもの」というだけのイメージではなく、それぞれの日常生活にある不満や不便、不快を解消できるものとして、1人ひとりの身近なものにしていきたいです。

そのためには、商品企画はもちろんですが、できあがった商品を世の中に知っていただくことも大切だと考えています。山仁薬品の商品が、実際の店舗でもインターネットでも、簡単に探せて購入できるような環境を整えることに力を注いでいきたいと思います。そうすることで、世の中が快適になり、社員の働きがいも高まり、滋賀県にも貢献できると信じています。

ーーありがとうございました。

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