劇的な敗戦が、「このクラブを応援したい」という想いの火を灯したーー。
長野県伊那市に本社を構える軟包装パッケージメーカー・三洋グラビア株式会社は、2024年に松本山雅FCのJ2昇格プレーオフの敗退をきっかけに、クラブへの強い支援の気持ちが芽生えました。
試合の結末は、昇格を逃す劇的な敗戦。しかし、その瞬間に湧き上がった「応援したい」という感情は、やがて社内にも広がり、スポンサー契約にとどまらず、ホームゲームでのボランティアや、インターンシップを通じた連携企画など、地域とともに歩む取り組みへと発展しています。スポーツ支援が、社内のコミュニケーションを活性化させ、採用活動や健康経営にもつながっていく――。
スポーツ支援が社内コミュニケーションを再生させ、採用活動や健康経営にもつながる。その裏側にある本気の想いと未来への挑戦について、原卓実社長(以下、原)と経営企画室・小林安優さん(以下、小林)にお話を伺いました。

敗戦をきっかけに生まれた「応援したい」本気の想い
ーー三洋グラビアさんは、2025シーズンから松本山雅FCのオフィシャルパートナーになりました。そのきっかけや背景を教えていただけますか。
原)私はこれまで熱心なサッカーファンというわけではなく、実際にスタジアムで観戦したのも知人に誘われて行った一度きりです。この地域には松本山雅FCを応援している人も多かったですし、もちろん社員にもファンがいますので、“応援の熱いクラブ”という認識は持っていました。
そんな中、2024シーズンのJ2昇格プレーオフ決勝を中継で観戦しました。試合の結果は劇的な敗戦でJ2昇格を逃す形になりましたが、逆に私たちのなかに「このチームを応援したい」という想いを残す結果になりました。
ーーその体験がスポンサー契約につながったわけですね。
原)当社として、本業である包装資材の領域で売上や利益を伸ばすことはもちろん大前提です。ただ、その利益をどう活用していくかという点については考える余地があると感じていました。“地域貢献”というのは以前から意識していたキーワードでしたが、社員からも「地域貢献をしたい」という意見が聞かれるようになってきていたんです。そうした背景も重なり、「今このタイミングで松本山雅を応援することが、地域を盛り上げ、地域に貢献する機会になるのではないか?」と考え、私たちからクラブにアプローチしました。
ーースポンサーになる前と後で、クラブに対する印象は変わりましたか?
原)変わりましたね。以前は「地域で人気のサッカークラブ」という程度の印象でしたが、実際に関わると、クラブとして地域のために何ができるかを本気で考えている姿が見えてきました。以前から、生坂村の再生型観光事業への取り組みなど、単なるサッカーチームではなく幅広く地域のために活動していることは知っていましたが、改めてその本気さを感じました。
会社の状況や社員の想い、またクラブの姿勢が重なり合い、「地域に貢献したい」という気持ちがより明確になったからこそ、スポンサー契約につながったのだと思います。

三洋グラビアが選んだ“スポンサー契約”の新たなカタチ
ーースポンサー契約にあたって「広告看板を出すだけの関係ではもったいない」という考えがあったと伺いました。
原)おっしゃる通り、スポンサー契約は金銭的な支援が中心になりますが、「それだけではもったいないと感じていました。
「ほかにどんな関わり方ができるか?」と考えていた中で、クラブにご相談させていただく機会があり、松本山雅FCのホームゲームはボランティア団体の皆さんによって支えられているということを知りました。それなら「うちの社員も手伝わせていただけないか」と申し出て、今シーズンは毎試合、10名ほどがボランティアとして参加させていただいています。

ーー運営を支える形でも関わるわけですね。社員の皆さんはどんな反応でしたか?
原)最初は「何をするのかわからない」という戸惑う声が多かったですね。サッカーファンとして観に行くのとは違い、ボランティアとなるとイメージが湧きにくいようでした。ですが、最初に参加したメンバーが「参加してよかった」と社内で共有してくれたおかげで、「それなら自分も行ってみよう」という声が次第に広がっていきました。
ーー小林さんも最初のボランティアに参加されたと伺いました。率直な感想はいかがでしたか?
小林)松本山雅FCさんとの窓口担当でもあったので、最初は「行かなきゃいけないかな」という義務感も少しありました。でも、実際に行ってみるとすごく楽しかったです。普段は机に向かってのパソコン作業が中心なので、人と直接話して接客するのは新鮮で、気がつけばあっという間に時間が過ぎていました。
原)回を重ねるごとに、ボランティア参加希望がどんどん増えてきています。部門ごとに人数を割り当てながら、積極的に手を挙げにくい人も自然に参加できる雰囲気が社内にできてきています。
ーーボランティアとしてホームゲームに参加する試みは、結果的にどんな効果がありましたか?
原)部門を横断して一日一緒に活動するので、普段は接点のない人同士が話すきっかけになります。たとえば、入社して間もない社員が先輩や他部門の人と接する中で、「この人って、こんな一面があるんだ」という新しい発見があります。コロナ禍で社内イベントがほとんどなくなり、顔と名前が一致しない人が増えていた状況を考えると、こうした機会にはとても大きな意味があると思っています。
松本山雅FCのホームゲームが、部門や世代を越えたコミュニケーションの場となっていて、会社の組織づくりにも良い影響を与えていると実感しています。
「上伊那から、世界へ。」子どもたちの挑戦を支える企業の想い
ーー松本山雅FCとの取り組みに限らず、三洋グラビアさんの地域との接点も広がっていると伺いました。
原)この地域で生まれ育った子どもたち、あるいは移住してきた子どもたちが、将来日本や世界で活躍してほしいという想いがあります。
現在は、小学5年生のジュニアゴルファー・小嶋紗奈さんのスポンサーも務めています。彼女は本当に努力家で、ゴルフだけでなくピアノや勉強などでもトップクラスの成績を収めています。その姿を見て、「この上伊那という地域から世界で活躍する人材が育つのではないか」と感じましたし、そのために企業としてできる限りのサポートをしたいと考えています。
ーー地域から世界へ羽ばたく存在は、さまざまな人に夢を与えますよね。
原)上伊那は陸上競技も盛んで、箱根駅伝に出場する選手も多く育っています。こうした地域のスポーツに私たち企業が関わることで、子どもたちが挑戦を続けられる環境を整えたい。そしてその挑戦の積み重ねが、最終的には地域の誇りにつながれば嬉しいですね。

「作る」を通して学ぶ。クラブと企業がつないだ実践インターンシップ
ーー今回、夏の学生インターンシップでも松本山雅FCとの連携を取り入れられたと伺いました。どのような内容だったのでしょうか。
原)例年は動画制作など、広報系の企画にインターンシップ生が取り組んでいました。今年は松本山雅FCさんにも協力していただけることになり、ホームゲームに合わせて“ノベルティグッズを作る”というテーマにチャレンジしてもらいました。
ーー学生たちはどのように取り組んでいましたか?
原)イラストやデザインを考えるところから始めました。最終的にはノベルティグッズの配布に参加してもらう予定です。
今回作ったポケットティッシュでは、制作する過程で弊社以外に2社にもご協力いただき、複数の会社が関わるものづくりの流れを体験してもらえたと思います。普段何気なく目にしているものも、実は多くの人や会社の試行錯誤や議論を経て成り立っている。「人間分子の関係、網目の法則」(吉野源三郎「君たちはどう生きるか」より)を知ってもらえたのは学生にとって大きな学びになったのではないでしょうか。
小林)そのほかにも、中間面談という形で松本山雅FCのグッズ担当の方に学生の取り組みを見ていただく機会を設けました。
学生たちが当初デザインしたのは、「ホームゲームに来るファンの方のために」という想いが込められたものでしたが、「もっと自社の宣伝を入れてもいいんじゃないですか?」とアドバイスをいただきました。コラボ商品である以上は当社のこともきちんと伝えよう、という視点が加わったのはとてもよかったです。
ーー学生にとっても、実務に近い体験になったわけですね。
小林)そうですね。他社とのやりとりや、デザインを進める上での権利関係など、普段はあまり意識しないようなことも、今回は真剣に考える機会になったと思います。
ーーこうした取り組みは、採用活動や企業の魅力発信にもつながるように感じます。
原)今回のインターンシップのテーマを見て、「サッカーが好きだから」と県外から応募してくれた学生もいました。これまでアプローチできなかった層にも届いているな、と実感しています。なにより、インターンを通じて「三洋グラビアって、いろいろ挑戦できる会社なんだ」と感じてもらえたのなら、それが一番嬉しいですね。

健康経営と挑戦の文化で、100億円企業へ
ーー三洋グラビアとしての今後の展望についてもお聞かせください。
原)“健康経営”に改めて本気で取り組んでいきたいと思っています。社員が心身ともに健康で、イキイキと働けること。それが生産性の向上につながると思いますし、その手段の1つとしてスポーツを積極的に取り入れていきたいです。
信州駒ヶ根ハーフマラソンには、今年はお取引先様と社員で40人がエントリーするほど、もともとスポーツへの熱量が高い会社です。私のところにも土日の練習のお誘いがきています(笑)。

ーー仕事を越えて一緒に汗をかけるなんて、まさに“会社ぐるみの部活”のような熱気ですね。
原)本当に素晴らしいことだと思います。ただ、すべての社員が走ることを得意としているわけではありませんし、そういった人たちにも楽しんでもらえるように、いろいろな“きっかけ”を用意したいと考えています。
たとえば、スポーツジムの利用促進や社員みんなで楽しめるイベントを開催したり。そうした中で、少しでも体を動かす習慣や、健康な心身を意識するきっかけになればと思っています。
ーー最後に、若い世代や就職を考えている方々へメッセージをお願いします。
原)当社は「挑戦する文化」を大切にしています。社員1人ひとりが挑戦し続ける会社でありたいーー。それが私たちの願いです。2025年9月には経済産業省の「100億円宣言企業」に認定されました。現在は約50億円の売上ですが、そこから100億円企業を目指すと公言し、挑戦を続けています。人口減少で市場規模が縮小する中でも、現状維持に甘んじるではなく、成長を追い求める姿勢を持ち続けたいと思っています。
ーーありがとうございました。


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