「夏は部活動の追い込み期」――かつてはそう信じられてきました。しかし、近年の猛暑がその常識を覆し、屋外でのスポーツには深刻な制約が生まれています。選手の健康と安全を守るため、愛知県サッカー協会は今年度から、7・8月の大会やリーグ戦を原則中止するという大きな決断を下しました。
それでも、子どもたちから“鍛錬の機会”を奪わないために。そんな想いから立ち上がったのが、名古屋オーシャンズと愛知県サッカー協会が手を取り合って企画した『U-18フットサル交流会』です。会場となる『オーシャンズフィールド』には、空調設備を担った大冷工業株式会社も加わり、屋内で高校生たちが安全かつ実戦的に成長できる舞台が整えられました。
本記事では、この挑戦を支えるキーパーソンたちの言葉を通して、暑熱対策と育成の両立、屋内スポーツの可能性、そして地域から全国へと広がる“新たなモデル”の胎動を伝えます。
インタビュー対象
- 名古屋オーシャンズ 代表 櫻井嘉人氏
- 愛知県サッカー協会 専務理事 江崎由幸氏
- 愛知県サッカー協会 第2種委員長 酒向宏明氏
- 愛知県サッカー協会 第2種技術委員長 佐野朋生氏
- 大冷工業株式会社 代表取締役 大場章晴氏

猛暑が奪った夏、止まらない育成の想い
ーー年々、夏の暑さは厳しくなってきており、熱中症の事故も増えるなど外でのスポーツ環境は本当に厳しいものになっていると感じます。
愛知県サッカー協会 江崎)今年度より愛知県サッカー協会の主管、管轄する大会、リーグ戦フェスティバル等の開催を、7・8月は原則行わないと決定しました。活動をまったく行わないというわけではなく、JFAの熱中症対策ガイドラインに即して安全を確保できればという基準にはなりますが、活動としては以前のように自由に行うことができない環境です。
そんな中で、「屋外でできないのであれば屋内でやれるのではないか?」という発想と、フットサルの普及・強化の視点から、名古屋オーシャンズさんに協力を仰ぎ、まずは試してみようと企画されたのが今回のイベントです。
ーー高校生年代における、夏場の現状はいかがですか?
愛知県サッカー協会 佐野)夏、とくに学生が夏休みの時期は、各チームにとって強化するのに適した時期です。ただ、近年の暑さのせいで、そうした“強化”に当てられない現状があります。早朝や夕方、ナイターなど時間を工夫して練習を行っていますが、場所や施設にも制限ができてしまい練習時間が確保できないことは近年の強化面での課題だと感じています。
愛知県サッカー協会 酒向)7月・8月の公式戦を行わない決断をしたことで、リーグ戦も前倒しでスタートするなど、日程的な工夫を行ってきました。一方で、試合がなくなったことで、夏場のトレーニングをどんな内容で行うのか?ということも課題として出てきています。フットサルはサッカーにも繋がる技術や戦術を学べる非常に魅力的なスポーツだと思いますし、本格的なフットサルの普及という意味でもいい機会になるのではないかなと思っています。

「できない夏」を「伸びる夏」に|フットサルが拓く新しい可能性
ーー今回の交流会では、「屋外でサッカーができないから屋内で」ということだけでなく、名古屋オーシャンズの監督で元フットサル日本代表の木暮賢一郎さんからの講義があるなど、新たな“学び”にも繋げる企画になっています。
名古屋オーシャンズ 櫻井)名古屋オーシャンズとしては、以前から愛知県のフットボール界にフットサルで貢献したいという想いを持っていました。
サッカー・フットサルも含めて選手として、エンジョイとして楽しむ“フットボールファミリー”を増やしたいという想いは共通です。サッカーの技術において幅を持たせるためにも育成年代からフットサルの技術を身につけることは大切ですし、さまざまなフットボールの楽しみ方を覚えることで何かしらの形でプレーを続けられる、関わり続けられる人が増えるのではないかと思っています。
また、高校生でサッカーを辞めてしまうという子も多くいます。プロサッカー選手を目指すだけが道ではなく、フットサル選手や別の形でフットボールを楽しむ経験もできるのではないでしょうか。
江崎)愛知県サッカー協会としても、フットサル自体の競技人口を増やしていきたいと思っています。今回の交流会がサッカーに取り組む子どもたちのフットサルへの関心度を高めるきっかけになればと思いますし、技術的な部分でいうと、とくにゴール前のシーンなどは育成年代にとってプラスになると思います。
今回は高校生を対象にしていますが、いずれはより下の年代にも広げていきたいですね。

地域から全国へ|新しい育成モデルを支える人と企業の力
ーーこうした課題は、愛知県だけでなく日本全国であると思います。
櫻井)Jリーグが2026年から秋春制に変わるように、夏場のサッカー環境というのはサッカー界にとって非常に大きな課題です。ですが、これを1つのチャンスと捉えると、Fリーグでは男子22チーム、女子11チームが全国で活動しています。アリーナが整備されてきている動きもあり、今後に向けて今回の交流会は愛知県が先駆けて全国に発信するモデルケースになるのではないかと思っていますし、ここだけで終わらずに広めていきたいという気持ちを持っています。
ーーサッカーに取り組む育成年代の子どもたちへの場所提供という形だけではなく、地域の企業である大冷工業さんが関わることで、大きな交流会としての役割にも昇華していると感じています。
大冷工業 大場)夏の暑さが厳しくなることで、スポーツをする選手だけでなく、コーチ、観戦する家族、大会運営者にとっても大きな負担が生まれています。暑さの中でも安全に技術を磨ける環境を整え、応援する人たちも安心して観戦できる場ができるのは素晴らしいことだと思います。
私たちは、名古屋オーシャンズさんの新しい練習施設『オーシャンズフィールド』の建設時に空調設備工事を担当させていただきました。空調がしっかりと入ったアリーナでは、夏場の激しい練習でも熱中症のリスクを軽減できます。

ーー屋内施設での暑熱対策について、ポイントを教えてください。
大場)大規模な屋内施設では、熱や呼気によるCO2がこもらないように換気をしながら空調を管理することが重要です。換気量が多くなると、屋外空気の流入量も増えますので、それに見合った空調設備の導入・設計が必要です。フットサルやバスケットなど比較的風の影響を受けにくいスポーツと、バドミントンのように風の影響を受けやすいスポーツの違いもあり、床下空調を利用した対策など新しい技術も出てきています。
子どもたちに届ける、出会いと発見、そして夢
ーーこの交流会への期待・これからへの期待を教えてください!
酒向)もちろんサッカーにフットサルの技術的・戦術的な部分を豪華なスタッフ陣に教えていただき、選手たちにとってプラスになることを期待しています。また、ほかの学校の選手たちと長時間一緒に過ごすので、そうした出会いも大切にしながら、楽しい機会にもしてほしいですね。
佐野)「フットサルの要素はサッカーに魅力的だな」と思っていても、なかなか現場で落とし込むことは難しいと感じていました。一人の指導者としても、この交流会を機会にフットサルのトレーニングをどうやってサッカーに落とし込むのかという学びを得ることができたらと思っています。
櫻井)楽しんでもらうだけではなく、フットサルにおけるダイヤの原石を見つけたいなとも思っています。今回の交流会は、この猛暑という課題に対する“お試し”という位置づけも大きいです。これを足がかりに、将来的には夏場はフットサルのリーグ戦が行われるなど、厳しい環境を逆に利用してよりよくなるような世界を作っていけたらと思っています。
ーーありがとうございました。
「猛暑に負けない笑顔と成長」|U-18フットサル交流会レポート
夏休みに入ってすぐ、7月19日(土)〜7月21日(月・祝)の三連休。それぞれの日に愛知県内の各校を招待し、名古屋オーシャンズU-18のメンバーとともに『U-18フットサル交流会』が開催されました。









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