女子バレーボールチーム『ブレス浜松』がホームタウンとする浜松市。2023年にはスポーツを通じた地域活性化に関する協定を両者が締結し、スポーツ振興の推進、SDGsの推進及び地域の発展のために連携した取り組みを行っています。
今シーズンから新たな形へと移行する女子バレーボールリーグにおいて、現在Vリーグに所属し、来シーズン以降のSVリーグ参入を目指しているチームを行政が支援することには、どのような意義があるのでしょうか?
今回のインタビューでは、浜松市とスポーツの関係性やブレス浜松との取り組みについて、浜松市・市民部スポーツ振興課スポーツコミッショングループ長の長正路徹氏(以下、長正路)と、同課の佐藤みなみ氏(以下、佐藤)に詳しくお話を伺いました。

「スポーツのまち」浜松
ーー浜松市は全国的にも「スポーツのまち」という印象がある自治体です。そんな浜松市の特徴を教えていただけますか?
佐藤)浜松市にはブレス浜松をはじめ、フットサルの『アグレミーナ浜松』、バスケットボールの『三遠ネオフェニックス』、ラグビーの『静岡ブルーレヴズ』、サッカーの『ジュビロ磐田』、男子バレーボールの『東レアローズ』、野球の『くふうハヤテベンチャーズ』など、多くのスポーツチームがあります。
スポーツのまちとしての浜松市の特徴は、ただプロチームが多いだけではありません。市民レベルでも多くのスポーツクラブやアマチュアチームが活動しており、ジュニア世代の育成環境も整っていたり、各種スポーツ大会が市内で定期的に開催されるなど、市民が競技に参加する機会が豊富です。
さらにスポーツイベントを通じた地域活性化も積極的に進めています。浜松シティマラソンやスポーツ体験イベントなどが年間を通じて開催されており、市民がスポーツに親しむ機会が多く提供されています。

長正路)浜松市は、“する”・“みる”・“ささえる”の三本柱によりスポーツ政策を展開しています。スポーツが地域に根付いている街として多様なスポーツを観戦できる環境が整っているなど、市民にとって、スポーツが自然と生活に溶け込んでいることが大きな特徴ですね。
また、スポーツの振興を支えているのは行政やチームだけではなく、地域の企業やボランティアの方々の協力も大きいです。地元企業がスポーツチームを支援し、市民が熱心に応援することで、地域全体がスポーツを通じて一体となる文化が根付いています。スポーツが地域のアイデンティティの一部となっていることが、浜松市の大きな強みだと考えています。

浜松市はなぜスポーツが盛んなのか?
ーー浜松という地は、なぜこれほどスポーツが盛んなのでしょうか?
長正路)歴史的に見ると、浜松はものづくりの街として発展してきた背景があります。そのため、多くの企業があり、企業スポーツの活動も活発です。また、日照時間が日本でもトップレベルであり温暖な気候や、街中から海・山・川・湖に気軽に行ける距離感も、スポーツをする環境が整ってきた要因になっていると思います。
ーー浜松市の広聴モニターアンケート調査を見ても、地域のスポーツに対する認知度は非常に高く、とくに50歳から64歳の層でブレス浜松の認知度が際立っていました。この年代の方々は、スポーツを観戦するだけでなく、企業の支援活動を通じてチームと関わっていたりするため、より深い関心を持っているのでしょうか?
長正路)そうですね、多くの地元企業の皆さんがブレス浜松を支えているという点も影響していると思います。さらに、地域の学校でもスポーツ活動が盛んであり、バレーボールはジュニア世代からママさんバレーまで幅広い年代が親しみやすい競技であることも関心につながっていると思います。

浜松市×ブレス浜松の地域とのつながり
ーー浜松市として、ブレス浜松の存在をどのように捉えていますか?
佐藤)浜松市とブレス浜松は、地域活性化を目的とした包括連携協定を結んでおり、バレーボール教室や大会の開催、小・中学生の無料招待などスポーツ振興、さらには地元イベントへの積極的な参加など健康づくりや教育といった分野でも地域に貢献をしていただいており、そういった活動を通じて、市民にとって身近な存在、大切な存在となっています。市としても市民にPRするため、市役所1階のショーウィンドウにはチームのユニフォームやグッズを展示させていただいています。
長正路)ブレス浜松は、まさしく市民球団であると感じています。250社以上のスポンサーに支えられており、地域密着型のチーム運営を市民全体で支えているチームであるため、チームが勝てば市全体が盛り上がり、負けると落ち込む、まさに市民と一体になった存在です。地域の企業や学校とも密接に連携し、バレーボールを通じた地域の一体感を育んでいます。
さらに、浜松市役所の職員にとってもブレス浜松の存在は大きな影響を与えています。年々チームへの関心が高まっており、多くの職員が試合を見に行って、ファンとなっています。「週末の試合どうだった?」といった会話が日常的に交わされるようになり、職場内のコミュニケーションの活性化にもつながっています。

スポーツを通じた「インクルーシブな社会」への挑戦
ーー浜松市が推進するインクルーシブスポーツとは何ですか?
佐藤)「年齢、性別、国籍、障がいの有無などを問わず、誰もが身近にスポーツを楽しめる環境づくり」をインクルーシブスポーツと総じています。スポーツを“する”・“みる”・“ささえる”が相互に機能することで、市民の活力が生まれ、にぎわいが創出されるまちを目指しています。今年1月には『はままつインクルーシブスポーツ連携プラットフォーム』を設立し、ブレス浜松をはじめとする16のスポーツチームに賛同いただき、展開しています。これは、障がいのある方も含めて、誰もがスポーツを楽しめる環境づくりを行政だけでなく、企業など地域全体で推進していくことを目的に立ち上げました。
長正路)2024年6月には、『Challenge to インクルーシブ in 浜松』という「スポーツ」×「遊び」×「食」を通じてインクルーシブについて楽しみながら考えるイベントを官民連携で開催しました。2,000人以上の参加があり、2025年もさらに規模を拡大して開催予定です。このイベントは、単なるスポーツイベントではなく、共生社会の実現を目指すためのきっかけとなることを目指し、スポーツチームの皆さんにも共感いただき、連携していければと思っています。

ーーこの取り組みの背景には、どのような想いがあるのでしょうか?
長正路)浜松市は東京2020オリンピック・パラリンピックでブラジルのホストタウンとして、選手団を迎えました。その経験を活かし、共生社会の実現に向けパラスポーツの普及活動を進めるようになりました。スポーツは、人と人をつなげる力があり、障がいの有無に関係なく、同じフィールドで競い合うことができる素晴らしいツールです。この理念のもと、インクルーシブスポーツを推進し、「インクルーシブ社会」に向けて、持続可能で元気なまち・浜松として発展していければと思います。
ーーインクルーシブスポーツの市民への理解は進んでいますか?
長正路)6月のイベント参加者にアンケートを実施したところ、「インクルーシブ社会」の理解度が30%から100%に向上したというデータがあります。また、55の企業・団体から協賛をいただき「インクルーシブ」を企業内研修の一環として取り入れるなど、スポーツを通じて共生社会の意識を高めることができていると実感しています。
佐藤)ブレス浜松が地域のスポーツの中心的存在として、市民や企業とともにこの取り組みを推進していくことを期待しています。スポーツを通じた市民との交流の場を増やし、市民もスポーツチームも誰もが楽しめる環境を整えていくことが求められています。
ーー今後の展望について教えてください。
長正路)行政だけではなく、ブレス浜松を筆頭にスポーツチームや企業、地域住民が一体となって、スポーツを通じた街づくりを推進していくことが重要です。今後は、より多くの競技団体を巻き込み、地域の学校や企業などと協力し、スポーツが持つ「まちを元気にする力」を最大限に引き出していきたいと思います。
ーー本日は貴重なお話をありがとうございました!



写真提供:浜松市・ブレス浜松