静岡特集

日本ラグビー界初のプロクラブ 敏腕社長が描く「静岡とラグビーの未来」|静岡ブルーレヴズ 山谷拓志

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日本のスポーツビジネスにおいて、プロ化と収益化は長年の課題とされてきました。とくにラグビー界は、企業スポーツとしての伝統が根強く、プロリーグとしての確立に向けた取り組みはまだ発展途上の段階にあります。そんな中、『静岡ブルーレヴズ』の代表としてクラブ経営の最前線に立ち、改革を推進しているのが山谷拓志氏。

もともと、プロバスケットボールリーグ Bリーグ『宇都宮ブレックス』や『茨城ロボッツ』での経営経験を持ち、スポーツビジネスの可能性を追求してきた山谷氏は、「ラグビーのプロ化は難しい」と感じながらも、その可能性を信じ、静岡という土地に根ざしたクラブ経営に取り組んでいます。今回のインタビューでは、ラグビー界における課題、静岡という地域が持つポテンシャル、そして静岡ブルーレヴズが目指す未来について語ってもらいました。

山谷氏が考える「ラグビーの可能性」とは何か。そして、クラブ経営の観点から見たスポーツビジネスの成長戦略とは——。静岡ブルーレヴズの挑戦を通して、日本のスポーツ界の未来を考えます。

静岡ブルーレヴズ

「できるかできないかではなく、まずはやる」

——バスケットボールクラブなどでの経験を持ちながら、山谷さんがラグビー業界を選んだ理由について教えてください。

山谷)実は、ラグビー業界を自分から選んだわけではありません。ヤマハ発動機は、ラグビーの最高峰のリーグがトップリーグという形態から『リーグワン』に変わる2021年のタイミングで、チーム名からヤマハ発動機という企業名を外して地域のクラブとして独立分社化し運営していく方針を掲げました。その中で、経営者としてお声がけをいただいた形です。

最初は「ラグビーのプロ化なんて絶対に無理だ」と考え、お断りしていました。しかし、ヤマハ発動機が熱心に誘ってくださったこともあり、いろいろと調べたり話を聞いたりする中で考えが変わりました。とくに、2019年のワールドカップが日本で開催され、日本代表が静岡で劇的な勝利を収めたことを思い返し、「可能性はある」と感じました。また、ヤマハ発動機が本気で取り組む姿勢を見て、「できるかできないかではなく、まずはやる」という判断をしました。

実際に関わり始めると、ラグビーという競技そのものに非常に可能性があると感じるようになりました。また、静岡という地域もプロスポーツチームの経営がしやすい環境だと思っています。現在では、静岡でプロラグビーチームを運営することに大きな可能性を感じており、まだまだ成長の余地があると確信しています。

——もう少し具体的にお伺いしたいのですが、最初は「ラグビーのプロリーグは厳しい」と思われていたとのことですが、その考えが変わったきっかけは何だったのでしょうか?

山谷)まず、ラグビーという競技そのものは非常に魅力的なコンテンツです。しかしながら、そのコンテンツが乗っているプラットフォーム、つまりリーグの構造が完全にはプロ化されていません。現在もそうですが、リーグワン自体がプロ化を積極的に推進しているわけではなく、クラブによって法人化するか、企業の福利厚生として運営されているかなど、目的がバラバラになってしまっています。これは、かつてのバスケットボール界と非常に似た状況です。各クラブの方向性が揃わず、収益を生み出しにくいプラットフォームの中で運営されている状況に、「ラグビーは魅力的なのに、仕組みが整っていないのはもったいない」と思います。

一方で、ラグビー観戦に適したスタジアムが存在することは大きな強みです。また、ラグビーは他の球技とは違い、コンタクトスポーツであることが大きな特徴です。サッカーやバスケとは異なり、選手が体を張り、ひたむきにプレーする姿に感動を覚える人が多い。バスケの試合後は「楽しかった」という声をよく聞きましたが、ラグビーでは「感動した」というフィードバックをもらうことが多いです。

ラグビーは本来、非常に魅力的なスポーツですが、現在のリーグの仕組みがその魅力を十分に活かしきれていない状況です。料理に例えるなら、美味しい食材を使っているのに盛り付けが良くない状態ですね。リーグの仕組みを改善し、適切な環境を整えれば、ラグビーはまだまだ成長できると確信しています。

「確実に成長している」収益を伸ばす静岡の可能性

——着任当初と現在を比較して、収益構造や収入源に変化はありましたか?

山谷)正直なところ、現状では全体の売上の約3分の2をヤマハ発動機に支援してもらっているので、スポンサーシップに大きく依存する構造になっています。ラグビーは、選手の数が多い割に試合数は少なく非常にコストのかかる競技であり、これは現時点では避けられません。ただ、各クラブには母体となるスポンサーが存在し、その企業が資金を提供するだけの理由があることは恵まれた環境とも言えます。例えば、アメリカンフットボールの企業チームはほとんど消滅してしまいましたが、それと比較すると、企業が支えているラグビークラブはまだそれなりの数が存続できています。我々にとっては、ヤマハ発動機の存在が非常に大きいです。

とはいえ、以前の企業スポーツだった時代に運営費の100%をヤマハ発動機の支援に頼っていた状況から、現在は3分の1を外部からの収益で賄えるようになりました。これは、ヤマハ発動機以外の企業スポンサー、チケット販売、グッズ販売などからの収入です。具体的な金額は示せませんが、確実に成長している部分です。

今後3年ほどで、ヤマハ発動機の支援割合を50%程度までにすることを目標としています。これは、支援額を減らすということではなく、全体の売上を増やしながら、外部収益の比率を引き上げていくという意味です。この4年間で、収益構造の変革は確実に進んできていると感じています。

——グッズ販売やチケット、スポンサー収益の伸びしろはまだまだあると感じていらっしゃるんですね。先ほど、静岡はスポーツビジネスを展開しやすい土地だとおっしゃっていましたが、その理由について詳しく教えていただけますか?

山谷)いくつかの要素がありますが、これまでの茨城や栃木での経験と比較すると、静岡には明確な強みがあると感じています。

まず、大きな違いはメディア環境です。栃木や茨城は首都圏の一部とされ、基本的にテレビは東京のキー局の番組しか入ってきません。一方、静岡には日テレ系、TBS系、テレ朝系、フジテレビ系の4つの地元テレビ局があり、地域密着のスポーツ番組や情報番組が充実しています。新聞も静岡新聞や中日新聞を購読している人が多く、全国紙が主流の北関東とは異なり、地元の情報が浸透しやすい環境です。ラジオや新聞を含め、地域の人々が地元のスポーツ情報に触れる機会が多いのは、スポーツチームにとって非常に大きなメリットです。

次に、経済面での強みです。静岡は首都圏と中京圏の間に位置しており、大企業が多く存在します。そのため、地域貢献やスポーツ支援に対する意識が高く、スポンサーシップの獲得がしやすい土壌があります。

さらに、交通インフラも優れています。東海道新幹線が通っており、県内の移動だけでなく、東京や名古屋からのアクセスも良好です。静岡は東西に広いため、移動の不便さはあるものの、新幹線の存在がそれを補っています。例えば、東京から浜松までは90分程度で移動できます。加えて、静岡は気候にも恵まれており、冬でも雪がほとんど降りません。私は静岡に来て4年になりますが、浜松で雪を見たことはありません。遠州特有の風が強いことはありますが、気候による試合の影響が少ないのも魅力です。

もし4年前に「日本全国でプロラグビークラブを立ち上げるなら、どこが最適か?」とリサーチしたら、静岡はかなり有力な候補として挙がったと思います。2019年のワールドカップで、日本代表がアイルランドに勝利した“聖地”でもありますし、Jリーグのクラブが4つも存在するサッカー王国であることから、スポーツ観戦文化が根付いているのも大きな強みです。そうした要素を考えると、静岡はプロスポーツクラブの運営に適した、理想的なマーケットだと思います。

——近年は浜松市内で静岡ブルーレヴズの露出が増えていると感じています。以前はジュビロ磐田一色でしたが、ここ数年で変化があったように思います。この間、どのような取り組みをされてきたのでしょうか?

山谷)そうですね。これまで栃木や茨城での経験から言えるのは、私たちは基本的に“後発”の存在だということです。バスケットボールでもJリーグのクラブがある中での後発でしたし、茨城ではJリーグのクラブが2つある状況の中での挑戦でした。
Jクラブは歴史も長く、サッカーの人気という確固たる基盤があります。そのため、後発のプロスポーツクラブが同じ土俵で戦っても、追いつくことは難しいし、追い越すことはさらに困難です。

だからこそ、「サッカーがやっていないことをやる」「サッカー以上に、例えばポスターの掲出枚数を増やす」といった戦略を意識してきました。決してジュビロ磐田をライバル視しているわけではなく、単純にラグビーは相対的に劣っているコンテンツであるという認識のもと、独自のアプローチを模索してきたということです。その結果、ブルーレヴズの露出が増えたのだと思います。

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“人”を集め、組織を進化させる

——そうした施策を実行するにあたって、組織づくりにも取り組まれたのでしょうか?

山谷)そうですね。組織というよりも、まずは“人”ですね。つまり、事業運営を担う人材の確保です。
ヤマハ発動機のラグビー部時代には、競技面を支える選手やコーチ、トレーナーはいましたが、事業運営を専門に行う人材はほとんどいませんでした。私が着任する前から数名はいたものの、必ずしもスポーツビジネスの経験者ばかりではありませんでした。

現在では、プロ野球界からは日本ハムや楽天、巨人、Jリーグクラブではヴェルディなど、そして私はBリーグクラブからといったように、さまざまなスポーツ業界から人材が集まっています。スポーツ業界以外でもコンサートのチケッティング経験者やアパレル業界から来た者など、プロスポーツやさまざまな業界の知見を持つ人たちが集まり、ノウハウを融合させながら組織が進化していると感じます。

—— スポーツチームの採用は難しいと言われますが、そうした優秀な人材を確保できている理由は何でしょうか?

山谷)採用の難しさは、どの基準で考えるかによります。「優秀な人を採りたい」と思えば難しいですし、「誰でもいいから採る」と考えれば簡単です。ただ、現状の採用市場では、とくに優秀な人材を確保するのは競争が激しくなっているのは事実です。
私たちが意識しているのは、スポーツ業界だからといって給与水準を低くしないことです。他のチームが低いからといって、それに合わせるのではなく、ヤマハ発動機の関連会社として、それに近い水準の処遇を提供できるようにしています。スポーツ業界の中では特別に高待遇というわけではありませんが、「これだけもらえるなら」と感じてもらえるような条件を提示できていると思います。

また、人事専門のスタッフを配置し、積極的な採用活動を行っています。具体的には、採用データベースへのアクセスや、ダイレクトメール・スカウトメールを活用し、ターゲットとなる人材に直接アプローチしています。その結果、転職を考えていなかった人でも「ラグビー界が変わろうとしている」「このチームならおもしろそうだ」と思い、転職を決意してくれるケースが増えています。受け身の採用ではなく、こちらから積極的に声をかけていく姿勢が、結果として良い人材の確保につながっているのだと思います。

地域にとって“スポーツがもたらすメリット”とは?

——少し話が変わりますが、ラグビーに限らず、プロスポーツクラブが地域に与える影響について、どのようにお考えですか? 

山谷)いくつかの側面がありますが、一般的に言われるのは「交流人口の増加」です。例えば、サッカーやバスケットボールのように毎週リーグ戦を行うスポーツは、ホームとアウェーを交互に戦うため、2週間に1回はホームで試合が開催されます。バスケなら約5,000人、サッカーやラグビーなら5,000~1万人以上が集まるイベントが、定期的に開催されるわけです。

これは地域にとって大きなメリットです。例えば、年に1回の大規模なお祭りでも数万人規模の集客があるかどうかというレベルですが、プロスポーツはそれを定期的に生み出します。地域経済にとって、これは一過性のものではなく、継続的な効果をもたらすものです。

また、プロスポーツクラブがあることで地域の知名度が向上します。例えば、磐田市は『ジュビロ磐田』がなければ、全国的にはどこにある街なのかわからない人も多かったと思います。しかし、スポーツチームがあることで、地域の認知度が上がり、企業誘致や移住促進などにも良い影響を与えます。

子どもたちにとっても、地元にスーパースターがいるというのは明確な目標になります。スポーツへの関心が高まり、運動を始めるきっかけになったり、努力することの大切さを学んだりする機会を提供できます。また、大人にとっても地域への愛着が深まり、郷土愛を育むきっかけになります。

静岡に関して言えば、もう一つ重要なのは「リニア開通の影響」です。リニアが開通すれば、静岡はさらに“通過される地域”になります。現在も「のぞみ」が通過している状況ですが、リニアができると東京~名古屋間は40分程度で移動できるようになります。そうなると、新幹線を利用する人は、静岡を目的地とする人だけになるわけです。つまり、単に新幹線の停車本数を増やすのではなく、「静岡に行きたい」と思わせる理由を作らなければなりません。その理由の一つが、プロスポーツの存在です。スポーツは多くの人を動かす力があり、応援や観戦のために訪れる人が増えれば、静岡が単なる“通過点”ではなく、“目的地”になる可能性があります。

——リニアの話以外で、静岡特有の課題について、この4年間で感じたことはありますか?

山谷)静岡には、メディア環境、経済環境、気候、交通の便といった大きな強みがあります。しかし、スポーツに関して言えば、「日本に誇れるフットボールスタジアムがない」 というのが最大の課題だと感じています。
静岡には、ヤマハスタジアム、IAIスタジアム日本平、エコパスタジアムといった施設がありますが、プロスポーツがしっかり稼げる、最高の観戦環境を備えたスタジアムは存在しません。これは非常にもったいない。

長崎や広島では、新しいスタジアムが建設されており、地域経済にとっても大きなプラスになっています。静岡は、交通の便も良く、気候にも恵まれ、Jリーグのクラブも4つあり、プロのラグビークラブもあるという、スポーツコンテンツが充実した県です。しかし、それを最大限に活かせる“器”が不足しています。
もし、静岡に最新のスタジアムができれば、スポーツを核とした経済効果をさらに生み出すことができます。静岡は、もともとスポーツのポテンシャルが高い地域なので、スタジアムの整備が進めば、日本でも有数の「スポーツで人を呼べる、稼げる県」になる可能性があります。

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——たしかに、静岡にはそうしたスタジアムやアリーナがあまりないですね。

山谷)そうなんですよ。静岡は『サッカー王国』と言われる県ですが、全国に誇れるようなフットボールスタジアムがない。本来、静岡にはあって然るべきだと思います。
交通の便や気候など、静岡には強みが多くあります。そこに魅力的なクラブすなわちコンテンツがあるわけですから、その器となる最高の観戦環境が整えば、スポーツを通じた地域活性化がさらに進むと思いますね。

——今後の展望についてお伺いします。山谷さんが静岡ブルーレヴズで成し遂げたいこと、またはプロスポーツビジネス全般で描いている未来像についてお聞かせください。

山谷)まず、静岡ブルーレヴズとしては、ラグビーという素晴らしいコンテンツを、より多くの人に届けることが大きな目標です。
ラグビーは非常に魅力的なスポーツですが、現状ではプラットフォームであるリーグ構造の問題で、その魅力が十分に伝わっていません。美味しい料理なのに、盛り付けや提供の仕方が良くないため、なかなか手に取ってもらえない状況です。まずは、それを変えていきたいと考えています。

極端な話、今のリーグワンのままでも、しっかりとプロ化し法人化して取り組めば観客を集め、魅力を伝え、収益化できるということを証明したいですね。そのためには、まずは強いチームを作ることが必要です。チームが強くなり、魅力的な選手が増えれば、自然とファンも増えていきます。

また、外面的な部分も重要です。現在、ブルーレヴズは主にヤマハスタジアムを使用していますが、ジュビロ磐田と併用しているため、運営の自由度があまり高くありません。スタジアムの管理は基本的にジュビロが行っており、我々が独自に装飾をしたり、広告看板を変更したりするのも難しい状況です。この点を改善するために、より自由度の高い運営ができる環境を整えることが必要だと考えています。
もちろん、新しくラグビー専用のスタジアムを作るというのは現実的ではありません。しかし、フットボールスタジアムや多目的スタジアムの整備といった選択肢や可能性を模索しながら、強いチームと、それを支える収益基盤を確立していきたいですね。
静岡という素晴らしい環境で、「日本のラグビーもここまでできるんだ」という成功モデルを作ることが、私の目指すところです。

ー—たしかに、ヤマハスタジアムにはジュビロ磐田のエンブレムしか掲げられていませんね。

山谷)そうなんです。実際の持ち主はヤマハ発動機ですが、スタジアムの運営や管理はジュビロ磐田が行っています。そのため、我々は試合開催日に限って使用させてもらう立場で、装飾や看板の設置なども自由に行えないという制約があります。
浜松では、新しい野球場の建設計画が進んでおり、ドーム型の多目的施設になる可能性があると言われています。もしそうであれば、その中でラグビーも開催できるような仕組みを作るというのも、一つの選択肢かもしれません。

いずれにしても、静岡ブルーレヴズがより自由に運営できる環境を整えることが、今後の大きな課題です。それを実現できれば、クラブとしての競争力も高まり、ラグビーの可能性をさらに広げることができると考えています。

——最後に、山谷さんはこれまでさまざまなプロスポーツクラブの経営に関わってこられましたが、プロスポーツビジネス全般の課題や今後の可能性について、どのように考えていらっしゃいますか?

山谷)そうですね。将来的に自分がどこまで関われるかはわかりませんが、例えばアメリカに行ってNBAやメジャーリーグを観戦すると、「すごいな!」と感じることが多いですよね。

もちろん、競技のレベルそのものが高いというのもありますが、それだけではありません。スタジアムやアリーナの設計、提供される食べ物、グッズのデザイン、観客席の工夫、そして熱狂的なファン文化など、日本とはまったく異なる雰囲気があります。これはおそらく、ヨーロッパのサッカーでも同じでしょう。

つまり、スポーツの魅力は競技レベルだけで決まるものではないということです。例えば、中学生のサッカーの試合でも、見ていておもしろいと感じることはありますよね。それなのに、アメリカのスポーツ観戦のあの“すごさ”が、日本ではなかなか実現できていない。これが非常にもどかしく感じています。「日本にはメッシや大谷翔平がいないからだ」と言われることもありますが、そうではありません。日本でもスポーツの演出や観戦環境を工夫すれば、観客が感動する体験を作ることはできるはずなんです。

しかし、日本のスポーツ界は、なかなか変革が進まない。Bリーグはリーグの仕組みを改革し、Jリーグもプロ化を進めてきました。しかしラグビーは未だに「このままでいい」という雰囲気がある。リーグの改善やプロ化の議論がなかなか進まないのは、本当にもったいないと思っています。

例えば、国際的なスポーツ連盟から制裁を受けたり、川淵三郎さんのような強烈なリーダーが登場しないと、大きな変革が起きないのが日本のスポーツ界の特徴ですよね。これは“前例踏襲”や“現状維持バイアス”が強く働いているからだと思います。将来的に私がどのような立場で関わるかはわかりませんが、日本において、スポーツを本格的なエンターテインメント産業として確立することが重要だと考えています。アメリカやヨーロッパのように、スポーツが大きなビジネスになり、憧れの職業になり、スタジアムやアリーナに入った瞬間に「すごい!」と感じられる環境を作りたい。それが私の理想です。

——たしかに、アメリカの高校生のアメフトの試合のほうが、日本のプロスポーツより盛り上がっていると言われたりしますよね。

山谷)アメリカでは、高校のアメフトの試合でも数千人規模のスタジアムが当たり前のようにあります。それに比べると、日本のスポーツ観戦の環境は、まだまだ発展の余地があると思います。
最近では、エスコンフィールド北海道(北海道日本ハムファイターズの本拠地)や長崎スタジアムシティのように、新しいアリーナやスタジアムが少しずつ増えています。Bリーグもプロ化に成功し、リーグとしての改革を進めています。こうした「中身(クラブやリーグの価値)」と「外身(スタジアムやアリーナ)」の両方がセットで進化することが重要ですね。

ラグビーも、同じように進化できるはずです。もちろん、アメリカンフットボールのように日本では発展が難しい競技もありますが、それでも「どうすればスポーツをエンターテインメントとして盛り上げられるか?」を本気で考えていくことが大事だと思っています。

——日本のスポーツビジネスには、まだまだ可能性があるということですね。

山谷)間違いなくありますよ。海外には、魅力的なアリーナやスタジアムがたくさんあるのに、なぜ日本はこの時代に新国立競技場のような収益性の低い施設を作ってしまうのか? 国体のたびに、経済合理性のない2万人規模の陸上競技場を作り続けるのか?
ラグビーも、プロ化し、全クラブを法人化し、事業運営をしっかり行えば、間違いなく成長できるはずです。しかし、なぜか「企業スポーツのままでいい」と考えている人が多い。これは、旧態依然とした考え方というよりも、「変えることへの抵抗感」や「あるべき姿から目を背ける」ことが原因ではないかと感じます。
例えば、ラグビーで「1万人入れば十分」と思ってしまえば、それ以上の成長は望めません。けれど、可能性を信じて「もっと大きくできる」と考えれば、新しい道が開けるはずです。

——そうした意識の差が、スポーツビジネスの発展を阻んでいるのかもしれませんね。

山谷)そう思います。経営者が変革の必要性を理解していなかったり、長年企業スポーツの世界にいた人が「これが正しい」と思い込んでいたり、改革を進めることで批判されるのが嫌だったり・・・。いろいろな理由があるでしょうね。
でも、もっと大きな視点で考えると、日本のスポーツ産業には、まだまだ成長の余地があるはずです。スタジアムやアリーナの整備、リーグの仕組みの改革、ファンのエンターテインメント体験の向上——。こうした要素を組み合わせれば、間違いなくスポーツビジネスは発展していくと思います。

ーーありがとうございました。

山谷 拓志(やまや たかし)氏

静岡ブルーレヴズ株式会社 代表取締役社長
早稲田大学スポーツビジネス研究所招聘研究員、静岡県スポーツ推進審議会委員、一般社団法人静岡県ラグビーフットボール協会理事

1970年東京都生まれ、慶應義塾大学経済学部卒。
1993年リクルートに入社し営業職や企画職に従事。アメリカンフットボールチーム『リクルートシーガルズ(当時)』の選手としても活躍し1996年度・98年度日本選手権(ライスボウル)優勝。2000年に選手を引退し同チームのアシスタントGM兼コーチに就任、2002年度日本社会人選手権優勝。リンクアンドモチベーション・スポーツマネジメント事業部長を経て、2007年にB1リーグに所属する『宇都宮ブレックス』を創設。設立から3年目で田臥勇太選手を擁し日本一となり3期連続で黒字化を達成。日本トップリーグ連携機構による優秀GM表彰『トップリーグトロフィー』を2008年・09年と2年連続で受賞。日本バスケットボールリーグ専務理事を経て、2014年よりB1リーグに所属する『茨城ロボッツ』の社長に就任。経営を再建し2021年にB1リーグ昇格を果たす。2020年『スポーツビジネス大賞ライジングスター賞』を受賞。2021年6月から現職。2021年9月日本サッカー協会100周年功労表彰。スポーツマネジメント分野における専門家としても注目を集め『スポーツ経営論』『スポーツによる地方創生』『モチベーションマネジメント』などをテーマに講演・著書・寄稿など多数。元アメリカンフットボール学生日本代表選手。

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写真提供:静岡ブルーレヴズ

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