静岡県浜松市に本部を置く社会福祉法人聖隷福祉事業団および学校法人聖隷学園は、地域の医療・福祉・教育の普及推進の観点から地元浜松で活動する女子バレーボールチーム『ブレス浜松』のオフィシャルパートナーを務めています。
今シーズンから形が変わる女子バレーボールリーグの中、現在Vリーグに所属し来シーズン以降のSVリーグ参入を目指すチームを支えることの意義とは?
今回のインタビューでは、聖隷福祉事業団と聖隷学園がブレス浜松を支援する背景や地域との連携によってどのような成果を生み出しているのかについて、聖隷福祉事業団・理事長の青木善治氏(以下、青木)と聖隷学園・理事長の小栁守弘氏(以下、小栁)に詳しくお話を伺いました。
「やらまいか精神」で繋がる絆
ーーブレス浜松を“地域の医療・福祉・教育の普及推進”の観点から応援されている聖隷福祉事業団さんと聖隷学園さん。その成り立ちについて教えてください。
青木)聖隷グループは1930年に設立され、今年で94年目を迎えました。設立当時は結核が流行し、毎年15万人ほどが亡くなる「亡国の病」とも言われていた時代で、私たちの事業はその結核患者の介護と看護から始まりました。
「助けが必要な人には手を差し伸べよう」という隣人愛の精神に基づき事業を拡大し、現在では1都7県、209施設、514事業を展開しています。主に医療や福祉、健康診断、介護施設などを総合的に展開していることが、私たち聖隷福祉事業団の特徴です。
例えば、三方原地区には福祉タウンがあり、聖隷三方原病院、健診施設、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム『エデン』、リハビリセンター、障がい者施設、こども園、聖隷学園の教育機関などが密集しています。それぞれが連携し、質の高いサービスを提供しています。
地域に根付く精神である「やらまいか精神」に基づき、困っている人を助けるという想いが現在の事業展開にも受け継がれていると思います。
ーー聖隷グループが形成する三方原地区の福祉タウンの中で、教育を担う聖隷学園さんについても教えてください。
小栁)聖隷学園は1949年、遠州キリスト学園として設立されました。こども園から大学院まで一貫した教育を提供し、3,100名以上が在籍しています。卒業生の多くが聖隷福祉事業団で働き、ゆりかごから墓場まで聖隷で完結する、一貫性のあるグループです。
ーー先ほど伺った内容から、教育、健康、福祉といった分野で地域社会との強い関係が築かれてきたことがよくわかりました。次に、ブレス浜松と関わることになったきっかけについて教えてください。
青木)私が聞いているところでは、「バレーボールを通じて地域を盛り上げよう」という機運が、浜松商工会議所を通じて高まっていたことがきっかけの一つです。私たちとしても地域の健康を重視し、健診事業なども行っていますので、そうした取り組みには賛同の意を表しました。こうしてブレス浜松とのつながりが生まれ、地域貢献にも寄与できる形になりました。最初はブレス浜松の選手を1名、事業団の職員として雇用したところからスタートしました。
ただの「プロの選手」ではなく、地域社会の一員
ーー現在では、聖隷福祉事業団さんでも複数の選手を雇用されていると伺いました。
青木)聖隷福祉事業団としてはこれまでに5名の選手を雇用し、そのうちの3名が継続して働いています。1名は仙台のチームに移籍してしまいましたが、もう1人はポルトガルのリーグへの挑戦を終えて引退し、今年6月の帰国以降、聖隷福祉事業団の職員として再就職し、フルタイムで働いています。
現在はブレス浜松のジュニアチームでコーチを務めて、事業団の職員として働きながら地域スポーツの指導に携わっています。選手を引退した後もこうして繋がりがあるのは、とても素晴らしいことだと思います。
ーー引退後も地元に貢献し続けられる環境があるのは理想的ですね。ブレス浜松の選手たちにとっても地元企業との結びつきが深いことは励みになるでしょうし、地域の方々も彼女たちを自分の仲間として温かく支えている様子が伝わってきます。
青木)ブレス浜松の選手たちは、ただの“プロの選手”ではなく、地域社会の一員としての役割を担っていると思っています。とくに私たちは、選手と“職場の仲間”として接しているので、親近感を持って応援することができます。職員が少しずつお金を出し合って応援の旗を作って試合会場に応援に行ったりすることもあるんですよ。
ーーそれはすごいですね。ブレス浜松に対して、地元企業の方々がそれぞれの立場で応援しているのは非常に心温まる話です。
青木)ブレス浜松の選手たちは、地元での仕事を通して地域の方々と自然にふれ合い、職場でも人望があり、応援されています。こうした地域の親しみやすさが、ブレス浜松というチームの大きな魅力の一つですよね。
小栁)私も同感です。聖隷学園でもバレーボールが盛んで、聖隷クリストファー高校男子バレーボール部は全国大会に出場するなど、実力のあるチームです。女子バレーボール部も近年強くなり、静岡県西部地区で優勝するなど成長してきています。
実は、聖隷クリストファー高校の女子バレーボール部にはブレス浜松ジュニア出身の選手がいるんです。地元のジュニアチームから成長した選手が地元の聖隷クリストファー高校に在籍し、やがてはプロに進む可能性があることは、非常に意義深いと思います。
ーー将来、地元出身の選手がプロチームで活躍する姿は、多くの子どもたちに夢を与えますよね。
小栁)身近にプロチームがあり、試合を間近で観られる機会があることは、とくに子どもたちにとって良い勉強になります。バレーボールだけでなく、地域全体が一丸となって支えるスポーツの文化があることも浜松の素晴らしいところです。
地域社会における「守り、繋げる」というスポーツ文化
ーーほかにも、昨年は聖隷福祉事業団さんが“健康スムージー”をブレス浜松と共同で開発されていましたよね。また、聖隷クリストファー大学とブレス浜松との共同プロジェクトで女性のがん検診の啓発活動も行っていました。そういった取り組みは、どのような経緯で生まれたのでしょうか?
青木)事業団の各部署のメンバーがブレス浜松と話し合って、社会課題解決に向けての企画を立案しています。健康課題解決だけではなく、選手たち自身も“健康スムージー”の企画を楽しんでいると聞いています。浜松市の健康増進を目的に、ブレス浜松とキッチンカ―を手掛ける企業さんの3社でこの事業を立ち上げ、地域のみなさんに健康志向の食品を提供できる成果となりました。
ーー地域の健康づくりや、がん検診の啓発活動にスポーツチームが関わることは、特に女性にとって大きな意味があると感じます。バレーボールの競技自体の魅力についても、聖隷福祉事業団さんや聖隷学園さんのお考えをお聞かせいただけますか?
小栁)バレーボールは、非常にスピーディで観ていてエキサイティングです。こうした試合は、選手や観客の意識を世界舞台に向けさせ、強く自覚させる部分があると感じます。地元でバレーボールを学びながらその目標を持つことは、スポーツがもたらす自己成長のひとつの形ですね。
青木)そうですね、とくに女子バレーボールは、攻守が交互に繰り返されるラリーが特徴であり、ラリーの続く様子が魅力の一つです。試合を通して粘り強く戦う姿勢は、観ている者を引き込みます。また、小さなころから気軽に始められるスポーツとして、バレーボールは地域社会に深く根付いていると感じます。
小栁)浜松に限らず全国的に広がるママさんバレーの文化も、子どもたちがその影響を受け、成長していくきっかけになっていると思います。子どもたちは母親の姿を見て自然に競技に親しみ、さらには地域社会における「守り、繋げる」というスポーツ文化を学んでいるのではないでしょうか。
ーーありがとうございました。
写真提供:ブレス浜松、聖隷福祉事業団