今回は、NPO法人北海道野球協議会が2019年にスタートした、“障がい者就労支援”と“ボールのリサイクル”を両立する社会貢献活動「インクルージョンボール」を取り上げます。
取り組みだけでなく、野球界におけるプロ・アマ連携に対する熱い”想い”をNPO法人北海道野球協議会・理事長 柳 俊之氏(以下:柳)に伺いました。
北海道全体で野球界を盛り上げたい
インクルージョンボールは、糸がほつれて使用できないまま各学校・チームに保管されている硬式野球ボールを回収し、障がい者就労支援施設で補修、そのボールを循環させて再利用する仕組みを北海道内に構築し、“障がい者の就労支援”と“ボールのリサイクル”を両立する社会貢献・スポーツ振興事業です。
ーー「障がい者支援」と「リサイクル」に着目したきっかけを教えてください。
柳)野球を通じた社会貢献として何ができるかと検討していた時、京都のNPO法人「就労ネットうじ」で“エコボール”という活動をしていると耳にしました。エコボールは、ほつれたボールを就労支援施設で修繕をし、再生して売り上げを施設に還元する活動と知り、この活動を参考にすれば、北海道の我々の仲間と一緒に活動できるのではないかと始めたのがきっかけです。
柳)北海道は野球協議会という形で2000年に北海道のアマチュア野球界が一つになり、現在、アマチュア団体の16団体が一つになって活動しています。その後、2016年からプロ野球・北海道日本ハムファイターズや、プロ野球OBクラブがアマチュアと一緒になって野球を通じて世の中に貢献したいという形で活動を続けています。恐らく全国各47都道府県の中でプロ・アマ一緒になって活動しているのは北海道だけだと自負しております。
今まではどちらかというとアマチュア野球だけで物事を考えていましたが、プロの皆さんとお話すると視野がぐんと広がり、野球を通じて、様々な形で貢献できると感じています。我々も北海道日本ハムファイターズと活動をともにしていく中で、アマチュアの各団体だけと話をしてる時よりは、昔より世の中が大きく広がったのを実感しました。やはり、プロの集団で、野球をビジネスとしてるわけですから、活動の資金繰りなどに関して非常に勉強になっています。
ーー現地の就労支援で働いてる方、支援しているチームからどういった声を頂いていますか?
柳)修繕したボールを提供した野球チームの方も喜んでくれていますし、就労支援の障がい者の方からもそういった声を頂いています。野球を通じて、一体感が生まれるという形は非常に嬉しく思います。
ーーインクルージョンボールの他にはどのような活動をされているのでしょうか?
柳)北海道で障がい者と一緒に「赤い羽根」ティーボール※北の甲子園記念大会 北海道知事Cupを進めています。株式会社札幌ドームさんをはじめ、様々な企業の支援をいただきながら全国の障がい者のみならず、健常者も含めて、あるいは海外からもチームが来て、札幌ドームをお借りして大会開催しています。
※ティーボール=ピッチャーがおらず、バッティングティーと呼ばれる細長い台にボールを置き、止まっているボールをバットで打つ野球やソフトボールに似た競技。
また、障がい者の方々、特に今回のインクルージョンボールでお手伝いしてもらってる人達も、野球場に足を運んでもらって修繕したボールを使っている中学生、高校生、大学生、社会人の野球チームと良い形で交流する方法を今後検討していければと思います。
我々北海道野球協議会としては、「健常者も障がい者もいるのが世の中なんですよ」「皆、同じ人間なんだよ」というように不平等をなくし、「すべての人に健康と福祉を」といったSDGsの視点を意識した活動を続けていきたいです。
プロ・アマ連携の未来
ーー“プロとアマの連携”を重要視していることに印象を受けました。北海道の野球界全体で取り組むことに対する意味をどう感じていらっしゃいますか?
柳)日本の野球界は、野球界全体を統括する組織がないんですよね。北海道では野球界全体が一緒になって、特に野球少年・少女が健康的に大好きな野球を一生涯できるような環境整備を含め、情報交換しながら活動をスタートしました。
どのスポーツもそうですが、小学校で終われば次は中学、中学終われば次は高校という形でだんだん次のステージに上がっていきます。トップクラスのプロの段階が注目されますが、好きな野球を楽しみながらずっと続けられるということを心がけていきたいです。それから、活動の当初から各スポーツ団体と話していると、小学校・中学校の時に怪我をして大好きな野球を諦めてしまう少年・少女が沢山いると実態がだんだん分かってきました。昨今はそういうのも無くしたいという想いで色々な施策を講じています。
ーー今後、プロとアマの連携をどのように進めていきたいと考えていらっしゃいますか?
柳)日本のプロ野球はトップレベルの集団ですから、そこを子どもたちの大きな目標、夢としてチャレンジできるような仕組みを創りたいと思っています。
特に、昨今は野球少年・少女、チーム数が少なくなったり、中体連の参加チームが減るといった野球人口減少の問題があります。プロ野球のネームバリューをうまく活用させていただきながら、子どもたちからお年寄りまで幅広い世代で、野球界として一緒に活動ができたらと思います。
特に、日本の野球界は学生野球からスタートしています。プロ野球の集団が後からできたので、野球界はプロとアマ間で大きな溝があった時代がありました。今は、少しずつ雪解けムードと言いますか、昔よりもプロアマ関係なしにやれるようになりましたが、まだまだその壁が完全に取れないという現状があります。”学生野球憲章”というのもあり、過去の歴史も沢山ありますが、今の子どもたちにとっては関係のない話だと思うんですよね。「野球やったら一緒ですよ」と野球界が一本化されるのを願っています。