「子どもたちのために、絵本を作りたい」
プロバスケットボール選手で、Bリーグ千葉ジェッツふなばしに所属する佐藤卓磨選手は、昨シーズン自チームのスタッフにこう伝えました。
そこから始まった、『シュガプロ〜 佐藤卓磨選手こどもたちへの絵本制作・寄贈プロジェクト〜』。佐藤選手はどんな想いでプロジェクトに取り組み、自身が得たものはなんだったのでしょうか?
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一歩を踏み出すきっかけとなる選手になるために
ーー「絵本を作って寄贈する」というプロジェクトのきっかけはどんなものだったのですか?
佐藤)子どもの頃、目標となるプロバスケットボール選手のクリニックに参加した際にすごく褒められて、バスケットボールがより好きになれたという経験がありました。この経験がなかったら現在のようにプロ選手として活動している自分もいなかったと思います。
コロナ禍で子どもたちと接する機会が少ない状況でも、プロ選手としてなにかを子どもたちに伝えていきたい。そして、それが次の世代、また次の世代へとつながり、バスケットボールというスポーツの価値が上がっていくきっかけにもなってほしいという気持ちがありました。
ーーこうした活動でプロアスリートとして何か伝えていきたいと思ったとき、絵本はとても特徴的だと感じます。「絵本をつくろう」と思われた理由は、どんなところにあるんでしょうか?
佐藤)現在の子どもたちが千葉ジェッツのことやバスケのことを知るきっかけになるものは何かと考えたときに、私が子どもの頃に母親が絵本を読み聞かせしてくれたことを思い出しました。この絵本をきっかけに中学生、高校生、大人になってからも本を読む習慣がついたら、より人生を彩ることにもつながると考えました。
ーー読書好きな佐藤選手の背景は、絵本にあったのですね。
スタッフ、さらにはファンも巻き込むプロジェクトへ
ーーこの活動をまわりの方々にお話したときには皆さんどのような反応でしたか?
佐藤)最初は千葉ジェッツのスタッフ数名に話をすると、「いいですね!」と最初からみなさんがかなり乗り気で反応してくれました。「もしかしたら絵本が、本当に実現できるのかもしれない」と感じたのが最初でした。
ーーそうすると、できない可能性があることもご自身の頭の中にはあったんですか?
佐藤)そうですね。最初は“スポーツ選手が絵本を作る”という先の見えない状況でしたので。しかし、日に日に「出版社の方と連絡取れたよ」「絵本を作れるか聞いてみるね」など、少しずつ形になっていきました。
自分の好きなタッチの絵本の作者もご紹介いただき、多くの人たちを巻き込みひとつのチームとなっていきました。
また、ブースターさんや皆さんと一緒に創り上げたいと思い、資金はクラウドファンディングで集める形を選びました。
ーー佐藤選手のアイディアがいろいろな人を巻き込んで、チームでのプロジェクトになっていったのですね。
佐藤)本当に最初の一言から、急激に大きくなっていきました。正直、自分もここまで形になり、ここまで多くの方から反響をいただけるとは思ってなかったので、いまだに信じられないです。
何を持っているかではなく、持っているものをどう伸ばすか
<ストーリー>
なにをやってもうまくいかず、自分に自信がなかったキリン。引っ込み思案で、友だちが遊んでいても仲間に入れずに、いつもひとりでいました。そんなある日、動物たちが発見したバスケットボールに無理やり誘われて……。
ーー絵本のストーリーで子どもたちに伝えたかったことはどんなことですか?
佐藤)どんな人も自分の生まれ持ったものは決まっています。その自分の中の秀でたもの、できることをまず尖らせていこうということを伝えたいです。自分の人生の中の学びでもあり、バスケットもそういうやり方で生きてきました。それを子どもたちが理解はできなくても、そういう絵本があったなと思ってもらえるだけでもいいですし、シンプルにバスケというスポーツが好きになるきっかけにもなってほしいとも思っています。
佐藤)僕の場合は背が高く、バスケットボールというスポーツでそれを使っただけです。見方を変えてみたりすることで、人それぞれにいいところは絶対にあります。なので、それに気づくきっかけになればなと思いました。
ーー絵本作家のカワダクニコさんとのやりとりの中で、佐藤選手にとっての驚きや発見はありましたか?
佐藤)自分の話したことをイメージ通りに絵に表現していただいたこと、その完成までのスピードにも驚きました。プロの作家は本当にすごいなと思いましたし、自分とは違うプロフェッショナルな人と関わることで、まったく違う世界を見させていただきました。
絵本作りを通して得た、感動と驚き
ーー多くの人を巻き込み、当初の想像以上に素晴らしいプロジェクトになったのではないかと思います。逆に進めていく上で大変だったことや、苦労されたことはありましたか?
佐藤)一番心配だったのはクラウドファンディングで資金が集まるかどうかでした。賛同してくれる人が少なければ、本も刷れないので、どのようにして皆さんに発信していくかというのも悩みました。
また、バスケが本業なので練習後に定期的にフロントスタッフの方々と絵本作りを進めていくことにも不安がありました。ですが、いざやってみるとその時間が息抜きになり、とてもよかったです。(笑)
ーー実際に完成した絵本の子どもたちの反応はどうだったのでしょうか?
佐藤)東京福祉専門学校で、子どもたちにこの絵本の読み聞かせをしました。慣れない読み聞かせでしたが、思った以上に反応が良くて、自分の一言で作ることになった本が、こんなことになるとは思いもしませんでした。
より多くを与えられる存在に
ーー今回の佐藤選手のように、アスリートが社会貢献活動をしていく価値についてどう考えていらっしゃいますか?
佐藤)プロのアスリートという仕事は、スポンサーやファンの方、地域の皆さんがいないと成り立たないものです。ルーキーの頃はその本質に気づけていませんでしたが、今では社会貢献活動をしていくことは仕事よりも使命だと感じています。
自分の名前が有名になるよりも、活動を通してバスケットボール選手全体の価値を上げ、バスケットボール界も盛り上げ、より多くの子どもたちにも夢を与えたいと思っています。コートでファンの方たちと接するとわかるのですが、子どもたちの僕らを見る目は本当にキラキラしています。その眼差しのおかげで自分たち選手は底知れないパワーをもらって活動できています。だからこそ僕ら選手も自分自身の強みや立場を使って、子どもたちに夢を与えたり、何か社会に貢献することをしないといけないと思います。そうでなければ、割に合わないので、自分の持っているものは全部出し切ろうと考えるようになりました。
ーー社会貢献活動をすることで、その子どもたちの反応から得られるパワーなど、自分に返ってきてることを大きく実感されているのですね。こうした社会貢献活動をしたいと考えるアスリートになにかアドバイスはありますか?
佐藤)まず何でもいいから行動すること、じゃないですかね。それが実現するかどうかはわかりませんが、思いがあれば何かしらの形にはなると思います。また、何か行動を先にしたら想いや気持ちがあとからついてくるという感じもあると思います。不安な気持ちとかを一度すべて置いて、何かやってみることが大切だと思います。
ーー今回も佐藤選手が動き出したことが、まわりにとっても大きなきっかけになっていますよね。
佐藤)そうですね。最初にこの企画に取り組んでくれたスタッフの人をはじめとして、本当にみんなで作り上げてるという実感がありました。
また、クラウドファンディングの返礼品として、支援者の方々に絵本を実際にお渡しするサイン会の際、千葉ジェッツブースターを中心とした支援者の皆さんもこの絵本作りのプロジェクトに対して当事者意識を持ってくださっていたことも嬉しかったです。その中には、児童養護施設で育ったある女性が来てくださり、「子どもたちに実際に夢を与えるプロジェクトをしてくれて本当にありがとう」と涙を流されていました。このプロジェクトを通して、人の心を動かすことができたと思う瞬間でした。
自分にアスリートとしての寿命があるうちは、今後もできる限りの社会貢献をして、次の世代の子どもたちに少しでもいいものを残したいと思っています。
ーー素晴らしいことですね。今後もいろいろなところで、佐藤選手の想いが溢れる活動が増えることを期待しています。本日はありがとうございました。
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